「ダーリンは此処に座っててね!」
どうやったのか、ギャラリーが多いにも関わらずとても見晴らしの良い場所に椅子を陣取った猫汰が、俺が勝つからねー!と言って集合アーチに去っていった。
有難く、猫汰が用意した席に座り、何度も向こうで手を振ってくる猫汰に手を振り返す。
途中で龍児も手を振り始めたので、どっちに手を振って良いのかとても困ってしまったが、対策をする前に二人がぎゃあぎゃあ喧嘩を始めたので、手を振る役自体がそこで流れた。
あんなところでも喧嘩してるなぁ。飽きないなぁ。そんな風に、二人の動向を見物していると。
「せんぱーい、特等席っすね」ひょっこり、両端に影が差した。
左右を確認してから「けんじ君、へんじ君」影の正体に名前をつける。龍児が参加する競技なので、応援に来たのだろう。
「どーも。隣いいですか?」
「どうぞ」
「あざっす」
二人は、膝を折って座ったり、片足を曲げたりしながら思い思いにくつろぎ始めたが、その内、へんじが立ち上がって何処かへ去っていった。かと思いきや、自分達の椅子を二つ持って戻ってくる。
さっさと地面にそれを広げて「いやー!まじで特等席!」楽しそうに椅子の上ではしゃぎ始めた。
選手入場が始まると、遠くで喧嘩をしていた二人も自分の列に戻って大人しく行進(というほど、畏まっていないけど)を始めた。
それを三人で、遠目に眺めていたが、その内「そういえば、今回の借り物競争の内容、へんじが考えたんですよ」けんじが思い出したように言った。
「へえ、そうなんだ」興味が、選手入場する二人から双子に逸れる。
「そういうのって、テーマとか決めて作るの?」
「いや?特に決めないですねー。まぁ、借りやすいような、でも、ちょっと難しいような、そんなもの混ぜて作った感じです」
「あはは、そうなんだ。なにを入れたのか教えてよ」
「えっとですね、コップとか、花とか、おかしとか…あ、人も入れましたよ?」
「ひと?」
「例えば、友達、とか、先生、とか。数はそんなに入ってないですけどね」
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