豪星の雰囲気を察したのか、猫汰もしばらく、豪星に合わせて口を閉ざしていたが。
「ごうせー!」
走り寄ってくる声に、はっと顔を上げた。
「探したぞ豪星!大丈夫か!」いつの間にか目の前にきていた龍児が、息を切らせて、豪星の腕をつかむ。
「うん、なんとか。ごめんね、かっこ悪い所見せて」
「別にかっこわるくない!」あまに勢いよく弁解…いや、龍児は本気で言ってるな。
とにかく、まじめな顔で心配してくれるので苦笑が漏れてしまった。豪星のケガなのに、まるで自分の事のようだ。
「…あ!それより、龍児君!さっき凄かったね!」
龍児の顔を見て、先ほどの健勝ぶりを思い出す。しかし、ぴんとしない声で「なにが?」と惚けられてしまった。
「なにがって、1000メートルリレーだよ!龍児君、一番後ろだったのに、一気にみんな抜かしちゃってさ!足が速いんだね!」
「うん。はやい方だな」
「俺、もー興奮しちゃって!すっごくかっこよかったよ、龍児君!」
「…ほんと?俺、かっこよかった?」
「うんうん!かっこよか」
「はいはいおみまい終わったー?それじゃあ面会時間終了でーす。お引き取りくださーい」豪星の賛辞が終わらない内に、猫汰がさっと、豪星から龍児の手を取り払った。
眼中にありませんでした、みたいな顔から、行き成り害虫を見る目つきへ変貌させた龍児が、「だったらお前も終了だろ。おい、こっちこいや」歯を剥いて猫汰に食い掛かる。
「えー?俺、ダーリンとは未来の家族予定だから?付き添い自由でーす」けらけら笑う猫汰の胸倉を、早速龍児がつかみかかった。うわわ!また始まった!
「その権利、今日こそ俺がぶんどってやるから、覚悟してろやメス豚ぁ!!」
「上等だ!!誰に喧嘩売ってんのか骨髄まで思い知らせてやっからなぁ!!」
「ふたりとも…!どうどう…!ええと、大声は、俺のケガに響きます!」
咄嗟に考えた言葉が我ながら意味不明だ。
51>>
<<
top