許可の下りたパイプ椅子を手に、グランドに戻ろうとしたとき、「豪星くーん」後ろから、つんつんと、また誰かが背をつついてきた。

その声の聞き覚えに、今更、足をくじく寸前の事を思い出した。

「とうさん!」

がば!っと振り返る豪星に、背後の相手は、へらへら笑うだけだ。

「やー、どうもどうも、パパですよー」

「あれー?お父様、来てたの?」

「うん、来てたの」じゃ、ないよ!びっくりして転んだだろ!先に言えよ先に!

「昨日体育祭の話を聞いて、本当は行く気満々だったんだけど、内緒にしてた方が面白いかなー?と思って、黙ってたんだー。ごめんね?」

「おかげさまで足をくじいたんだけど…」

「えー?豪星君のうっかりをパパのおかげにしないでほしいなー?」

なにその言い方!腹立つ!今度お前の卵ご飯だけソース入れてやるからな!

「でも、早速だけど帰ろうかと思ってるんだよね」

「え?どうしたのおとーさま、お腹痛いの?」

「痛く無いんだけど痛くなりそうかな。…まさか詩織ちゃんも見に来てるとは思わなかった。うかつだった。猫ちゃんのそばが一番危ないから、とっとと逃げるね」

きょろきょろ、父親が辺りを見渡した。余程見つかりたくないらしい。

ほんと、詩織さんと父親の間で、いったい何があったんだろう。

「という訳で、体育祭、最後まで楽しむんだよ豪星くん。なに、足が痛くても痛いなりの楽しみ方はあるよ」

「うるさい。早く帰って」

「うん。そうする。今日は僕がご飯作っておくから、ゆっくり帰ってくるんだよー」

へらへら笑って、何時来たのか分からない上に、もう帰ろうとする父親の背を眺めていたが、「見れて嬉しかったよ豪星くーん。時間が経つと何があるか分からないものだねー」途中で謎のひとことを放って、今度こそ去っていった。

数分、意味を分かりかねていたが…完全に、相手の背が見えなくなったところで、はっと瞬いた。

タイミングよく「お父様が見に来てくれて、良かったねぇ」猫汰がそんな事を言い出すので、顔が赤くなってしまう。

うつむいて、暫く、早鐘を打つ動悸をやり過ごす。

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