あれ。今龍児君の声がしたような。すごいな。この状況で、俺の恰好からケガを察したのか。

「っせーぞガキ!!お前の声がダーリンの足に響いたらどうするんだよ!!」

あ、やっぱり龍児君だったんだ。野次を返すなんて、律儀だな猫汰さん。

あと、なんで龍児君限定で俺の足に響くんだろう。どういう選別なんだろう。

「…しゃー！ゴールしたよー！」

結局、豪星と猫汰は全員に見守られる形でゴールしてしまった。

二人いても三脚していなかったので、規則は違反していたが、努力賞というのか、見物料というのか、一応、順位の札を委員会のひとが持たせてくれた。

その際、相手も豪星も、お互い苦笑いで、目をさっとそらす。心なしか、回りも苦笑一色だ。猫汰だけが、「わーい、順位とれたー！」とはしゃいでいる。

「猫汰！豪星君！大丈夫だったかい！」

二人三脚の装いがすべて片付いたころ、詩織が観客の中から飛び出し、丁度、猫汰の支えで医療テントに向かおうとしていた豪星たちに走り寄ってきた。

「大変だったね二人とも。それなのに、猫汰、あんなにかっこよく頑張って…！」

実兄の目には、あれはかっこいいものに映るのか。身内びいきって、こういうときに使う言葉なんだろうな。

「大丈夫かい少年。僕も支えるのを手伝うよ」

「あ、すみません」

兄弟二人に支えられて、ひょこひょこ足で医療テントに向かう。せわしそうにしている保険医を見つけると、順番を待って、足の様子を見てもらった。

豪星の足はやはり捻挫を起こしているようで、これ以上の競技参加は控えろとのお達しだ。

朝から参加不慮を起こすなんて、我ながら我らしいというか…。

まぁいいか。大縄跳びだけ、誰かに代わって貰おう。

豪星の治療が終わると、詩織は「それじゃあ」と言って去っていった。

詩織の後姿を見送った後、猫汰が、医療テント用に設置されたパイプ椅子をひとつつかんで、これを借りていこうよと豪星に提案した。

「俺の借り物競争、ダーリンに応援してほしいから、椅子に座って近くで見てくれる？」

本来なら、ケガ人はここで待機するようになっているので無茶な話なのだが、猫汰が振り返って、「せんせい、おねがい？」保険医（女性、３０代、独身）に小首をかしげて見せたところ、ふたつ返事でオーケイを貰えた。いいのかなー。

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