自分の持てる全ての力を出し切り、ひとひとりを抱えて(それも、自分よりも背が高くてガタイの良い男を、だ。畜生!超重かった!)教室から多目的室に全速力で移動する。
がらがら!がちゃん!と、開けて、締めてから、肩で思い切り息をして…「どういうことっすか!」荒い呼吸で叫んだ。
連れてきた人が、なんとも涼しげな顔で「なにがー?」と、首を傾げる。
何がもクソもあるか!!
「神崎さん、さっき、俺が合コンなんとかするって言ってましたよね?」
「言ったいった」
「聞いてませんよそんなこと!どういうことなんですかー!」
「はぁ?おまえ人語が理解出来ないの?」
「意味の話じゃねぇよ!意図のほうだよ!」
「なにタメ口してんの?」思わず口に出た暴言に向かって、猫汰が容赦なく張り手を食らわせてくる。
「すいまっせん!」と謝るが、理不尽過ぎて吐きそうだ!
泣きたい気持ちに駆られる原野を無視して、「だってさー」猫汰がスマホを弄りながら喋った。
彼氏の前では絶対やらないくせに!ネコ被り過ぎだろこの人!
「俺、彼氏居るのに合コンいくとかおかしいよね?だったら、行かない方がいいよね?」
いや前提がおかしいよ!お前が言い出したんだろ!
「それに、ダーリンだって、俺が合コンなんて行くと悲しいだろうし…だめ!ダーリンに悲しい顔なんてさせられない!悲しい顔のダーリンもくっそ可愛いだろうけど、笑った顔の方が絶対に良い!でも俺の所為で泣いちゃうダーリン!なにそれ美味過ぎ…じゃなくて!ああもうダーリン!ほんと可愛い!ダーリン大好き!というわけで、なんとかしといてね?」
「なんでその流れで俺がどうにかすることになるの!?」
「うるせーな」また叩かれた!酷い!俺の人権は何処にあるんだ!
「とりあえず、運動部の奴らには、前日までは俺も合コン出るって事にしといてやるから、お前はそれまでになんとかしとけよ」
「ええー!」叫んでみるけど、当然彼がこちらに配慮することは…、むしろ、こちらを振り向く事すら無かった。
スマホの画面を落として「さー、体育祭まであと少し!俺はりきっちゃうよー!」一人で盛り上がっている。
「ええー!」
もう一度上げた雄叫びは、「うるせぇ」と、眉を顰めた彼の張り手ひとつでかき消されてしまった。
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