振り返ると、体操着を着た見慣れた人が足音を立てて豪星の元へ近づいてきた。

「龍児君だ」と、相手の名前を呼ぶ。ちなみに猫汰は眉を顰めているところだ。

「どうしたの?移動の途中?」

「おう!つぎ体育!」

「そっか。今の時期だと体育祭種目の練習かな?そういえば龍児君、騎馬戦以外は何か出るの?」

「うん。出る。えっと…」

「おい。とっとと行けよ。こっちの休憩時間なくなんだろ」会話の途中に猫汰が割って入った。

さっきよりも、眉間の皺が数ミリ伸びている。すかさず、龍児が鋭い視線を作って相手にぶつけた。

「っせーなぁ豚。お前だけ休んでりゃ良いだろ。引っ込んでろ」

「なに厚かましい事言ってんだ。俺の彼氏の休憩時間なんだと思ってやがる」

「ダチに会うのに遠慮がいるかよ」

「そういうところが厚かましいって言ってんだよ!耳ついてんのかてめぇ!」

「んだとこら!!表出ろ!!」

「上等だこのっ!」

「ちょ!二人とも!落ち着いて…!」二人の険悪さに戸惑いかけたが、「龍児ー?何処だー?」双子の声が聞こえて、はっと意識をそちらに向ける。

「け、けんじ君!へんじ君!こっちー!」叫ぶと、今度は龍児がはっ!と振り向いた。

「あ。いたいた。なんだお前また喧嘩してんのか」

「ほら龍ちゃん、大修羅場になる前にいくよー」

嫌そうに顔を顰めた龍児を、双子が両脇に抱えて連行していく。その内、二人の腕を振り払うと「…じゃあな豪星」しぶしぶ自分の足で去って行った。

そのまま三人でいなくなる。かと思いきや、大分歩いて、もうそろそろ姿がぼやけるかなぁ、という場所にまでさしかかった所で、くるりと振り返り。

「死ね!メス豚!!」

罵声を残し、今度こそ歩き去っていった。

不意打ちを食らった猫汰が、一瞬だけ呆けてから「お前が死ね!!バーカ!!もうくんな!!」もう姿の無い廊下に向かって大音量の罵声を飛ばした。が、多分もう聞こえてはいないだろう。

気にくわない!といった顔で、うーうー唸っていた猫汰だったが、その内、くるりと豪星に向かい、その腕にぎゅうとしがみついた。

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