初見の内は、龍児は女でも追いかけているんだろう等と思い込んでいた時期もあったが、それは勘違いだったと以前本人から聞いたし、それに、一緒に暮らせば、少年途中である彼は女への興味がまだまだ薄いことは明白だった。…それなのに。
また、口を閉じてしまった龍児に「つまり、まだ付き合ってないけど、お前が彼氏になりたいって言ったんだな?」自分の口で補足を足すと、こくこく、龍児が頭と顎を同時に振った。
それを見て、瞬時に、耳元で祝砲が鳴る。
これは赤飯だ。赤飯を炊かねば。
まだ夕飯に間に合う。明日の朝食にしても良い。とにかく赤飯だ。
直ぐに立ち上がって、沙世に赤飯の支度を伝えようとしたところで。
「……、まって!」
恥ずかしそうに蹲っていた龍児が、立ち上がった須藤の足にしがみついてきた。
とても珍しい行動に、出掛けた足がぴたりと止まる。
須藤の方から「どうした?」と問う前に、龍児が、先ほどよりも、もっともっと恥ずかしそうな顔で、金魚のように口を開け閉めした。
声が出したいけど上手く出せない、そんな風だ。やがて、喉の笛がきちんと使えるようになると。
「彼氏って、ぜったい、変なことしないといけないの…!」脈絡の無い説明で、そう問いかけてきた。
「へんなこと?」首を傾げると、龍児が、足下で必死に頷いた。
「あ、あいつらが!彼氏になったら、相手に、へ、へんなこと、しないといけないんだって…!」
「あいつら?」
「この前、きた、あいつらが、へんなこと、言ってて、それで…へ、へんな動画、電話で、見せて、きて」
「……………………あー」
…まさか、子供が出来るアレのことか?
それを、この前遊びに来た龍児の新しい友達が、龍児に教え込んだってことか?
その内容について、こいつは暫く戸惑ってたってわけか?
まぁ、そりゃ戸惑うだろうな。なにせ、この前一緒にドラマを見ていたら、感動の出産シーンで「子供ってなんで病院で生まれるんだ?キャベツは?」とか言ってたしな。
可愛かったから何も触れないでおいたけれど。
しかし、分かってしまったのなら、きちんと正してやらないとな。曲がりなりにも、親な訳だし。
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