「あの、…龍児くんの様子のことで」
ちょっと、気になって。と締めた沙世の言葉に、ああ、その事かと納得を示す。
ちょうど、二階の部屋で、ゲームか漫画か、もしくは宿題をしているであろう龍児の姿を思い浮かべる。
―――どうも、龍児の様子が数日前からおかしいのだ。
変な場所でぼうっとしていたり、かと思えば、顔を真っ赤にしていたり、蹲っていたり、しまいには、おやつを半分残していたり。
何よりも好きな筈の食事を「いらない」と言い出したり。
「んー…俺も変だなとは思ってたんだよ」
「そうですよね…」
どうにも気がかりなので、本人に探りを入れてみようという事になり、その任を自分が受け持ち早速二階へと昇っていった。
締め切った戸を開くと、真面目に宿題をしていたらしい龍児がさっと目元を上げた。
その視線に合わせて膝を折り、「おい、龍児」と尋ねかける。
「ちょっと聞きたいんだけどよ、お前、最近なにかあったのか?」
単刀直入に聞くと、なにか、の部分で、あからさまに視線を逸らした龍児が、「…べつに、なんでもない」と答えた。
かなり、思い当たりのありそうな声色だった。
「なんでもないはないだろ。自分でもおかしいって分かってるんだろ?良いから話してみろ」
「………」
強く催促すると、相手の口が閉ざされてしまった。
龍児は貝になると、中々喋ろうとしなくなってしまう。
これは手を変えた方が良いなと判断し、今度は「どうした、早速彼女でも出来たのか?」と、からかい混じりにカマをかけてみた。すると。
「…っ」
急に、龍児の顔が真っ赤に染まった。耳から首筋まで、余すことなく茹で上がった龍児が、眉をへの字に下げて、ぶるぶると震え始める。
「…おい龍児、もっと詳しく話せ」低い声で問うと、視線をうろうろ彷徨わせていた龍児が、やがて貝の口を開いた。
「…彼女じゃ、ない。けど、…………俺が、彼氏になるって、言った」
ぼそぼそと、龍児が呟いた話に目が点になる。
まさか、掛けたカマが当たるとは思っていなかった。しかも、龍児の口から「彼氏」「彼女」という言葉が出て来る事自体驚きだった。
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