宙に浮かせたままだったへんじの人差し指が、今度は龍児をつつき始めた。
てっきり「うるさい」と一蹴するかと思いきや、まるで痛いところでも突かれたかのように、龍児の身体が、盛大に揺れた。
明らかに様子がおかしい事に気づき、途端心配になってきた。
「龍児君?どうしたの?お腹痛いの?」と、その肩に触ろうとした時、相手がぱっ!と飛び退き、除けられた。
目が丸くなる豪星に、漸く顔を上げた龍児が―――真っ赤な顔で、豪星を凝視した。
「ごうせい、あの、…あの、おれっ、俺、おれ…っ」
「うん?どうかしたの?」
「………――――――っ」
真っ赤な顔のまま、今度は固まってしまった。ぱくぱくと、口だけが、何かを必死に伝えようと開け閉めされている。
数分経ってから、漸く「が、がんばる、から…」と、一言だけ発して、相手がぱくん!と、勢い良く口を閉めた。
「…うん?そう?」
何を頑張るんだろう?テスト?体育祭?
どうにも、彼は時々会話から主語が抜けるので、何を言っているのか解らない時がある。
最近は随分、自分の翻訳機能が発達してきたと思っていたのだが、まだまだ途上のようだ。
しかし、へんじの方には通じたらしい。にやにや笑い始めたへんじが、龍児の耳元に口を近づけて、まるで秘め事のように声を注ぎ込む。
「そうだよ龍ちゃん、がんばれ頑張れ。大丈夫、好きなら出来るって、ねぇ?」
「……う、ん」
「?」
二人が何に対して頷き合っているのか全然分からなくて、ひとり首を傾げていると、おもむろに振り返ったへんじが、こちらも主語なく「せんぱい、あとで感想教えてね?」と尋ねてきた。
余計に「うん??」と、首が斜めに反り返る。
なんの感想だろう?よく分からないけど、まぁ、何かを指している事だけは分かったから、そのときになったら龍児かへんじに教えて貰おう。
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