購買に行くと、そういえば猫汰に何が食べたいか聞くのを忘れた事に気が付いた。

連絡を取ろうとしたが、…そんなことでいちいち電話を掛けるのもどうかなと思い、連絡を思い留まる。

彼は基本的に好き嫌いが無いので、適当に買っていっても怒りはしないだろう。

早速、昼飯を目当てに群がる人の群れに飛び込んで、所狭しと並ぶパンやお菓子の類を上から眺めた。

自分と、猫汰の分をなんとか確保して人混みから抜けた豪星の背を、突然、誰かがちょいちょいとつついた。

ちょっとくすぐったい位置を触られたので、びくり!と震えた。

次いで、背後から「お疲れさまでーす、先輩」と、最近聞き覚えてきた声が響く。

振り返ると、双子の片割れ(たしか、へんじの方だ)が、にこにこ笑って、豪星に触れたであろう人差し指を宙に浮かせていた。その隣には龍児も立っている。

何時もならば「ごうせい!」と嬉しそうに近寄ってくるのだが、今日は何故か、下を向いたまま微動だにしない。

どうしたんだろう?お腹空きすぎて動けないのかな?

「せんぱい、豪星先輩、此処で会えてちょうど良かったです。ちょっと話したい事があったんで」

「え?うん、どうしたの?」

「うん、あのですね、騎馬戦の事なんですけど。まぁ単刀直入に言うとですね、先輩は事の発端…まぁ景品ですね。ってことで、騎馬戦の時だけ、当日は主賓席の方に座って貰いたいんで、その了承を貰いたかったんですけど」

景品が主賓に座るって。なんていうか、言ってることは分かるけど、シュールだな。

「…えーと、まぁ、座るのは構わないけど」

「ですよねー!じゃ、豪星先輩に話つけてきたって上に行っときます!ところで先輩、猫先輩は一緒じゃないんですか?」

「え?ああ、うん、俺だけ購買に来たんだ。何時も猫汰さんがお弁当を二人分作ってくれるんだけど、今日は忘れちゃってね。二人分お昼ご飯買ったから、今戻るとこなんだ」

「へー!毎日手作り弁当ですか!なにげにラブラブですよねー!」

「ははは…」

猫汰が自分の彼氏で居る限り、この子が、弁当の中に詰まった、色んな真相に気づく日は来ないのだろう。非常に残念なことだ。

「それじゃあ、余計に頑張らないとねー?ねー?龍ちゃーん?」

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