むしろ、今回の事で大変大事な勉強をしただろう。最終的には良かったよかったというのが、お互いの本音だ。

「アイツ、今日の夜大変なんじゃねぇの?」

けんじが、こちらを器用に向いて、自転車の持ち手から離した親指をシモに向けて見せる。そうだねぇと、穏やかに頷いた。

「きのうはおたのしみでしたね?って、明日言ってあげようか?」

「ああ、アイツの家にそのゲーム置いてあったな。意味が分かれば、余計にゲームが面白くなるんじゃないか?」

「いいなあそれ!楽しそう!」

明日の楽しみを早速見つけた喜びを分かち合うため、二人で合図もなくお互いの手を叩いてみせる。

ぱちん!と鳴った小気味良い音は、閑散とした畦道に沿う虫の音よりも大きく、まっすぐに響いた。






件の、「騎馬戦」の概要は、体育祭種目の丁度真ん中に位置し、人員構成は、各クラスから3人選出、3学年まとめて72人、紅白分けて1チーム36人、更に4人体勢の騎馬を作って9組対9組、制限時間は30分内で執り行われるらしい。

「ねぇ原野ぉ、騎馬団って龍ちゃんの所為で団長補佐がいるんだけど、勿論やってくれるよね?」

放課後、人気の無い多目的室に原野を連れ込み、肯定しか選択肢の無い問いかけをすると、「え!」嫌そうに震え上がったので、胸ぐらをつか、む直前に、「やります!やらせてください!」と元気よく頷いたので、でこぴんだけで許してやった。

「ところで、お前の部活サッカーだったよね?クラスの選手決めが始まる前にちょっと準備したい事あるから、部長の連絡先教えてよ」

突然、猫汰が部活の事を口にしたので、何のことかと呆けていた原野だったが、もう一度胸ぐらを掴もうとすると、あっさり自分のスマホを制服から取り出して「部長」の名前がついた個人情報を見せてくれた。

良い子だったので、頬をつねるだけで許してやる。

直ぐに、原野のスマホから自分のスマホに情報を移し、用の無くなったソレをぽいとその辺に投げ捨てた。

「ひぃい!!ケースと画面が割れる!」叫ぶ原野が、自分のスマホが地面に着地する寸前で掴み止めた。それを横目で笑って、片手を上げる。

「さーて。ダーリンの貞そ…ダーリンの為に、俺がんばっちゃうよー!」

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