口が変な形に曲がる。痛くはなかった。
「ははは、なんだ気づいてなかったの?あんな押しの強いイケメンに散々振り回されてもなびかない辺りで、相当気が強いと思うけど?」
…そうなのか?そんなものなのか?自分のことだと、分からないという奴か?
「いや、うん、出せって言われても…」
「豪星君。人間ってね、好きになった相手にはしつこいし、色々強いたいものだよ?まぁそれで、得をするか損をするかは君の自由だけれど、今日みたいに、辛いって思うなら、きっぱり、さっぱりする事も覚えなさい。そういう器用さが、君を大人にしていくんだから」
「…父さんの癖に生意気な」
「そうそう、それそれ!」
父親の態度は相変わらず腹が立つが、…言われていることは一理ある。
「きっぱり、さっぱり…か」
…できるかなぁ、いつか。
善は急げ。という事で、騎馬戦の団長選出案が委員会で通った(思っていたよりも随分あっさり案が通ったものだ。しかも、委員長も教師も、男同士の熱い戦い!これぞ求めていたシナリオだ!この際、発端は男の取り合いでも目をつむろう!と大盛り上がりしていた。これは知らなかった事だが、教師の方が日頃彼氏と教師の前だけは態度の良い猫汰のことを、随分気に入っていたのも大きかったのだろう)その日に、へんじとけんじは龍児の自宅へと向かった。
ちなみに、何故住所を知っているかといえば、こんなこともあろうかと住所を記入する類の書類をこっそり覗いて、メモしておいたのだ。
そこまでするのは一重に、龍児が自分達にとって大変面白い人間だからである。
二人で自転車を漕いで、暫くして現れたのは、視界全土に広がる田圃の群れだった。
早生まれの稲が、青々と茂って風になびかれている。町をひとつ抜けるとこんな光景に出会えるんだなと、思わず感心してしまった。
田園のもっと向こうに、ひとつだけ背の高い、大きな屋敷が見えた。
スマホで確認した地図が指す場所と一致しているので、恐らくあそこが龍児の住まいなのだろう。
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