うろたえる猫汰の声を遮って、父親が「よかったねぇ」と、のんびり笑う。

声は優しげなのに、顔は悪戯な気配にまみれていた。これ、絶対楽しんでるな。

「今回のことで、浮気されるのがどれだけ辛いか分かったでしょ?これでますます豪星君を大事に出来るじゃないか。僕はその辺りの大事さをね?良い機会だから、君に問いたかった訳ですよ」

君の為だよ?みたいな、善意な言い方だけど、物凄く都合の良い事言って誤魔化してない?気のせい?

『…それも、そうだけど!』

あれ。良いんだ納得しちゃうんだ。チョロいな猫汰さん。

結局、猫汰は言いたかったことをほとんど言えないまま、父親に丸め込まれて声が萎んでいった。お陰で、もう、猫汰の声がこちらに漏れて聞こえる事は無かった。

父親が、調子の良いままで「もうこんなやり方しないよ。ごめんね猫ちゃん、今まで通り、豪星君のこと、大事にしてやってくれる?はいはい、それじゃ、お後は宜しいってことで、そろそろ切るねー?」と更に丸め込んで、切りの良いところで通話をぶっつり切ってしまった。

その器用な逃げ方に、ちょっとだけ、父親が羨ましくなる。

はいと言って、父親が豪星に携帯を返した。受け取ると、直ぐ、父親はごろんと寝そべり、天井を見上げながら「あーあ」と、あくび混じりに腕を伸ばした。

「ほんと、豪星君の事に関しては頭がユルいよね、猫ちゃんって。でもさぁ、面白いよね?あんなに顔の良い子が、豪星君みたいなぼやっとした子に浮気されるなんて、小説にも出てこないよ?」

「そのぼやっとした子はアンタの息子な訳ですけどね?」

「気にしないで息子!それも長所の内だって!…いででっ!いで!」

「いま思い切っりけなしてたよね!?」

先ほど当たらなかった足蹴から学習して、今度は絶対に掴める位置で父親の頬をつねった。

痛そうに唸りながらも、抵抗を見せない父親の頬から、ぱちん!と豪星が手を離したところで、「もう、乱暴なんだから」と、小さな文句が聞こえた。

「あのねぇ豪星君、君はその気の強さを隠してるから修羅場になっちゃうんだよ?もうちょっと表に出しなって」

「…え。俺、気が強いかな?」

身に覚えの無い事を指摘され、呆けていると、今度は父親の方から頬をつねられた。

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