「今日限りで親子の縁を切ろうか」
「やーん!僕は君のお父さんでいたいなー!」
「だったら黙ってろ!」
怒り心頭で、転がる父親を足で蹴り飛ばそうとしたが、寸前でかわされてしまう。腹立つ!
なんとか足先をぶつけようと暫く躍起になっていたが、ほほえましくない攻防戦をしている間に電話が鳴り始めた。
こんな時に誰だと思って見た名前は、ついさっき別れたばかりの彼の物だった。ざっと青ざめ、急いで通話ボタンを押す。
もしもし?どうしました?と、恐る恐る尋ねる前に、先ほどの豪星よりも更に怒り心頭な猫汰が、携帯の向こう側で、『忘れてた!』と叫んだ。
なんのことだと、もう少し詳しく説明して貰うと、どうやら、豪星ではなく、父親に用があって電話をかけてきたらしい。
これ以上詰られる訳じゃないと分かり、ほっと安堵していると、猫汰が代わって!と、強く言った。急いで父親に電話を寄越す。
「父さん、猫汰さんが、父さんに話があるって」
「はいはい?」
急に名指しを受けた父親は、不思議そうな顔を一瞬浮かべた後、ああ、と、意味深に笑った。
豪星から携帯を受け取ると、呑気な声でもしもーし?と応答する。その悠長な気配を、猫汰が『おとーさま!!』と、大音量でもってかきけす。
「あれあれ?なに怒ってるのかな猫ちゃん」
『何もへちまもないでしょ!おとーさまの嘘つき!ダーリンが浮気してたの隠してたでしょ!?』
「あれー?ばれちゃったー?」
猫汰の声が大きいせいか、会話がまる聞こえだった。どうやら、息子に詰るだけでは飽きたらず、父親にも火の粉がとんだらしい。
…猫汰には悪いが、なにもそんなに怒ることしたかなぁと、勝手に考える。
「まぁまぁ猫ちゃん、浮気されるのも人生勉強のひとつだよ?」
『こんなに悲しくて頭にくることが勉強になるなんて、俺は認めないから!!』
「なーに言ってるの。どうせ猫ちゃん、自分だって過去には浮気したことあるんでしょ?」
『………っ!』
お、黙った。という事は、した事はあるんだな。
なんか、必死な声で『ダーリンと付き合ってからはしてない!』って弁解してるけど、どう受け止めて良いのやら。
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