腹が減ったと訴えれば、まぁ時間だし、そうだろうなと、慣れた声で須藤が応えた。
「あーあ、折角豪星が誕生日なら、また飯でも連れてってやるか作ってやるとかしてやりたかったけど、ま、あいつはアイツで親御さんとか付き合いとかもあるだろうしな。ったく、お前が急に知らせなきゃ、先約とれたかもしれないけどよー?」
「しらん」
「まぁ、今年が分かったんなら来年に期待しようぜ。それより、次はお前の誕生日だな」
「………」
「今年は当日に祝ってやるからな。そうだ、今年こそ何が欲しいかちゃんと言えよ?……折角俺たち、親子になったんだからよ」
「………」
―――欲しい物について頭を動かした時、反動で龍児の足が止まった。それから、目線を落として床の表面をなぞる。
自分の中に、自分を問いかけてみる。咄嗟に答えられるものは、今も昔もただひとつだけだった。
食べたいという事。
それは本能から来るごくあたりまえのものだが、龍児にとっては、一番、求めてやまない物だった。
今まで、いろんな形でそれを失くし、その穴を、色々な形で埋めてきた。
そのことが辛いと思うこと自体、何処かで失くしてしまった。けれど、今は。
「…欲しいものなんて、わからない」
ぽつりと、聞こえないように呟く。案の定、それは須藤の耳には届かなかったらしく、彼は目の前を、何事もなかったように歩き去っていった。
顔を上げると、龍児は、少し先を歩く須藤の背をじっと見つめた。
わからないよと、もう一度呟く。
もう、今以上に、腹が減ることが無い。食べる事すら拒否をする空腹も感じない。何も足りないことが、ない。
「………―――」
それが何故「足りて」いるのか、龍児は、直ぐに分かることが出来なかった。
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