「だったらやっちゃえば?こういう事に混ぜ込んでさ」
「………」
「なんだなんだ、乗り気じゃないな、だったらこうする?」
一旦言葉を切ってから、けんじがへんじに耳打ちを始めた。内容を聞きつけたへんじが、え?とか、えー?とか、楽しそうに忍び笑って、けんじに向かってうんと頷く。
やがて、へんじは檀上から降りると、腕を拘束されたままの猫汰に駆け寄って。何事かを、ごにょごにょと耳元で喋りはじめた。
「あのさー、先輩たちって…」
最初は怪訝そうにしていた猫汰だったが、「…え!」行き成り恥ずかしそうな声を上げ、頬をピンク色に染め始めた。
「…いきなりなに!…い、いや、まだだけど…拒否られたっていうか…。うるさい!笑うな!…えっ、…う、うん」
「豪星先輩、ちょっとこっちきてください」
猫汰がへんじの話を真剣に聞いているところに、今度はけんじが豪星に近付いて来た。
「今、へんじがなんとかしてるんで、もう腕を離しても大丈夫だと思いますよ」恐る恐る、言われた通り離してみたら、本当に猫汰の腕がするりと落ちた。
豪星に手を離された事も気づいていない様子だ。すごい。…でも、へんじ君、一体何を話してるんだろう?
「それでですね、豪星先輩」
「うん?」
「ちょっと失礼」
「うん??」
急に、けんじが豪星の手を取ったかと思えば、ぺたりと、指を何かに押し付けられ、予め手に持っていたらしい紙の上に、その指をくっつけた。
紙の上から手を離した途端、豪星のぐるぐる渦巻く指紋が、真っ赤な色で紙の上に映り込んでいた。まるで、何かの捺印のようだ。
…ん?捺印?
「はい、捺印オッケー」
「え?」
「じゃあこれで、騎馬戦に勝ったら先輩の彼氏になれる権利と、ついでにえろい事出来る誓約書完成ね」
「…は!?」
その時、猫汰がへんじの傍で「ひゃっほう!」大変ご機嫌そうに飛び上がった。
「やるやるやる!」と、手を振りまくっている。
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