堂々巡りしていた豪星の救助信号は、思っていたよりも早くとある人物が察知し、ぐ、と、片手ひとつで豪星と猫汰に隙間を作った。
その時、誰かが言った。「普通入るか?すげぇなアイツ」と。
「やめろよ、豪星嫌がってんだろ」
割って入ったのは、これもまた龍児だった。やっぱり龍児かと、無意識に思った自分に気付く。
龍児に隙間を空けられた猫汰が、首の壊れた人形みたいな角度で龍児をにらんだが、ふと、その顔に笑みを浮かべて、腹辺りに指し込まれていた龍児の手を掴んで離し、ついでに自分も豪星から離れ、龍児に詰め寄った。
顔そのものはご機嫌そうだが、そうと決めつけられない圧力が、彼の全身から放たれている。
「なあにりゅーちゃん、友達は引っ込んでろよ。これは、俺と、ダーリンの、恋人としての問題なんだから。蚊帳の外って言葉知ってる?りゅーちゃんバカそうだから知らないかな?」
恋人、蚊帳の外、バカ、の辺りで、龍児がそれぞれに眉を顰めた。それを見た猫汰が、くすくす、相手を馬鹿にしたように笑う。
「そうだよねー?ごめん俺勘違いしてたわー。りゅーちゃんただの友達だもんね?何がどうあっても、最後は絶対恋人が選ばれるもんねー?ごめんごめん、そんなの浮気にカウントされないよねー?どうせ友達だもんね!」
猫汰の笑い声が、くすくすから、ゲラゲラに変わっていく。
その嘲りを顔中に浴びていた龍児だったが、大きな釣り目を半分に落とすと、ひとこと。
「お前豪星と別れろ」
「はぁ?」と、猫汰が呆気にとられて笑いをひっこめた。
豪星も、少し離れた場所で、「え?」と息を呑む。彼の口から、そんな言葉が出てくるとは思わなかった。
しかし、龍児の中では整合性が取れているのか、本人だけは涼しげだ。
「豪星が好きで付き合ってる相手なら、別に誰でも良いって思ってたけど…お前は男がどうとか関係なく胸糞わりぃわ。てめの反吐が移ったら大変だから、別れろよ、それで二度と近寄るんじゃねぇ」
久しぶりに聞いた龍児の罵声は、彼と出会った頃の剣呑さを思い出させたが、今の龍児は、あの時よりも更に研磨したような雰囲気を漂わせていた。
普段は、こたつに入った猫のような態度を見せる彼らしからない態度は、歳よりも大人びて見えた。
「だから、お前が指図することじゃないだろ」と、猫汰が反論すると、すかさず。
「じゃあ俺が豪星の彼氏になるわ」
「は?…うぶ!!」
突然、猫汰をその場に放って歩き出した龍児が、豪星の胸倉を掴んだ。…かと思えば、思い切り良く口を引き合わせてきた。
相手の口が当たった途端、がちん!と、お互いの歯がぶつかり合う音がする。
普段、全く痛くならないであろう場所に、経験した事の無い痛みがびり!と起きた。
…あれ、ていうか、今のキス!?え、キスって言って良いのこれ!?
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