暫く二人は黙り込んで教室の床に視線を落としていたが、その内、猫汰が豪星に振り返って、するりと豪星の首に両腕を回してきた。突然の事に吃驚してしまう。

それに構わず、猫汰は、先ほどよりも緩和したじと目、しかし、少し甘味の戻った声で「ダーリン、俺に謝って!」と、豪星を詰った。

「ダーリンの事だから、悪気が無いのは分かってるけど…でも!嘘ついた事も、誕生日教えてくれなかったことも、その所為で散々こいつ優先しやがった事も、謝って!はやく!」

「は、はい…?申し訳御座いませんでした」

「…ふん、腹には据えかねるけど、ま、こじれるより良いからね。けど、良い思いはさせてよ」

「え?なにが…うむ!」

突然、豪星の首に回されていた猫汰の腕が、ぐいと、豪星の頭部の裏側に移動して、力を入れてきた。

当然、前方に傾く豪星の唇目掛けて、猫汰がさっと目を閉じその口を合わせてくる。

同時に滑り込んできた相手の舌が、豪星に、もう大分過去の事に出来つつあったあの時の事を思い出させた。

背筋に妙な熱を感じながら、しかし逃げられず、暫く相手のされるがままになる。

豪星と猫汰のこれでもかといわんばかりに接着した姿を見ていた誰かが、ごくりと、唾を飲み込んだ。

双子のどちらかが、「おお…!先輩大胆だな!」と、真剣な声で呟く。

「許してあげるから、もっかい」

「ふぇ…?」

散々口の中を嬲られて、息も頭もおぼつかなくなってしまった豪星に、けろりとした顔をした猫汰が強請る口調で言った。

もっかい、と、何度も、頬と耳を掌で擦られる。こそばゆい感覚が、ぞくぞくと、触れられた場所から体中を駆け抜けた。

「ね、もっかい、ダーリンからキスして?」

「は、はひ…?や、あの、こんな、こんなところで」

猫汰の懇願の正体を知った途端、なんとか頭だけを引き戻して慌てた。

人前で、されるのとするのとでは羞恥のレベルが違う。当然、断ろうとしたが。

「はやくしろよ」

触れられていた耳を、強めにぎゅ、と握られ、くすくす笑われた。

からかう口調だったが、「やらねぇと絶対離さないし流してやらない」という気配が伝わってくる。

どうしよう。これ以上大事になる前に一発頑張った方が良いの?

それともその選択に流されちゃう方が大参事なの?

ごめんちょっと、考えられない自分の代わりに誰か答えて!

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