「うるせぇ!!お前も悪いんじゃねぇか!」
「!」
思わず飛び出た、みたいな罵声を食らって、一瞬呆気にとられてしまった。こんな風に猫汰に当たられた事は始めてだ。段々、豪星の顔が真っ白になっていく。
それに気づいたらしい猫汰が、はっとした顔を見せた後、バツが悪そうに眉を顰めた。
「…っ、急に怒鳴って、ごめん。…でも、でもダーリン、酷いよね!こんなさぁ、こんな、…俺ばっかり知らないで、良い気になってて、こんな、ひっどい浮気されて…。なに?ダーリンと居て舞い上がってるの、俺ばっかりなの?ねぇ、どうなの?」
「す、すみません、あの、二人とも気が合わないみたいだから、余計に険悪にならないようにと思って、嘘ついちゃって。…ええと、誕生日も、そんなに祝いたかったなら、聞かれる前に言えば良かったですね、すみませ」
「ちっがう!!」
豪星がしどろもどろに謝罪している途中、再び猫汰が噛みついてきた。自分の白い顔が、今度は青くなる。
猫汰は、いい加減にしてよ、と言いたげな顔で、豪星を睨んでいた。
「俺が怒ってるのそうじゃないからね!?そりゃそのどっちも死ぬほど腹立ったけど、そうじゃない!俺が怒ってるのはダーリンがどう思ってたかとかじゃなくて、ダーリンが、こいつを優先ばっかりしたから!こいつの事だから!!こいつ!こいつが!!」
「す、すみません…俺にも分かるように、説明して貰えると」
「おいブタぁ、本性出してきたな、胸糞わりぃツラに似合ってきたんじゃねぇかよ」
猫汰が言っていることの意味がよく分からなくて、もう少し、豪星にも解る様かみ砕いて貰おうとしたが、それまで、締め上げられながらも場を静観していた龍児が唐突に喋り始めた。
その声色には、嘲りも混ざっている。猫汰が、腕を上げたまま、ぐるんと龍児に視線を寄越した。
二人の視線がかちあった時、一瞬、火花のような物が弾けた気がして、思わず目を擦ってしまった。
「うるせぇ、喋んな」
「あ?誰に指図してんだ」
「―――おっまえだろこの糞餓鬼!!」
「うわぁあぁああ!!ふ、二人とも!」
とうとう、猫汰が龍児を机に叩き付け馬乗りになった。
龍児の顔面に拳が振りかぶった瞬間、悲鳴を上げて、その腕を咄嗟に掴んだ。
猫汰に「離せ!」と、重みのある低音で怒鳴られたが、離せる訳もなかった。その隙をついて、机に押しつけられていた龍児が、逆に猫汰に殴りかかろうとする。
「龍児君だめ!」と叫ぶと、かろうじて、龍児の勢いづいた手が止まった。丁度そのとき。
「おーい、龍ちゃん、此処かな?先輩がた失礼しまーす…って、うわわわ!!何々どうしたの!?」
龍児を探しに来たのであろう一年双子(恐らくへんじの方)が、中の惨状を目の当たりにした途端慌てふためき中に飛び込んできた。
その背後から、片割れがなになにー?と、呑気な声で続き、全く同じような反応をして、中に駆け込んだ。
2秒だけそれを振り返った豪星が「二人とも!」と声を荒げた。
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