龍児が手渡してきたのは茶色の紙袋で、手に持つと、かさかさ、素っ気の無い音が手元と耳に馴染んだ。
何故いきなり袋を渡されたのか、余計に訳が分からなくて、暫く一人で思考停止していると。
「つくったんだけど、今日、学校で会えなかったから」
「え?」
開けろ、と言われ、素直に袋の口を開いた。すると、中から出てきたのは、むっちりと膨らんだ蒸しパンケーキだった。
さきほど、コンビニで買ってきた物より形はいびつだが、見ただけで手作りと分かる、美味しそうな艶を纏っていた。
暫く、それを見下ろしながら茫然としていた豪星を、じっと眺めていた龍児が、おもおむろに「誕生日おめでとう」と言い放った。
はっとして顔を上げる。龍児の真っ直ぐな瞳の中に、呆けた自分の姿が見えた。
「…これ、もしかして、プレゼント?」
「ん、…前に、今日がお前の誕生日だって言ってただろ?俺、なんかやりたくて、沙世に聞いたら、プレゼントってお菓子なんかも良いって言ってたから、教えて貰って、簡単なものだけど作った、やる」
「そ、そっか、有難う、うん、嬉しい、俺、お菓子はこれが一番好きなんだ」
「…ああ、だからあんときすっげぇ怒ったのか」
「…ええと、今思うと、つまらない事で怒ってごめんね…」
「いや、俺が悪かったし」
過去のお互いの反省点を振り返った後、豪星は袋の中からひとつ、それを取り出した。くるくる、何度も形を確かめた後、ひとくち頬張る。
直ぐに食べるとは思わなかったらしい龍児が、ぴ!と、背筋を伸ばして驚いた。その顔に「おいしい」と、笑って見せる。
それを見た龍児が、次の瞬間、豪星よりも、ひと際嬉しそうな顔で笑った。
さつまいもが入った蒸しパンは、見た目通りとてももちもちしていて、ゆるい甘さが舌を寝かせるようだった。
何時も買うコンビニの物も好きだけれど、本音を言えば、今食べているような、手作りの蒸しパンが一番好きだ。
…優しい味がするから。
「おれ、誕生日とか、気にしたことなかった」
何時の間にか三口目を頬張っている内に、再び龍児が俯いた。何かを喋りはじめたので、お菓子を食べる手を止め、相手の旋毛を眺める形で、聞く体制に入る。
「他人も自分も、生まれた日なんて、別に関係無かったし、そんな事でなんで皆ああだこうだ言ってるのか、分からなかった」
「…そう」
「でも、今日はお前が生まれた日って思うと、いいな、こういうの、なんて言うのかな…えーと」
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