豪星が自分の飲み物を袋から取り出した時、それにめがけて、父親が呑んでいた缶をこんと押し当てた。祝う前に酒の缶を空けているのがこの人っぽいなと、十八年目にしてしみじみと思う。

既にふたつ目の缶を空けた父親が、けらけら笑って「もう結婚出来るね」と、冗談交じりに言った。

「それ、ずっと前に猫汰さんにも言われた、十八になったら俺たち結婚出来るねって」

「言いそうだねぇ猫ちゃん、でも、雄の国内産同士じゃ無理だよね!」

雄の国内産て…すごい表現だな。

「…って、父さん、ペース早いよ、なんかもう酔ってない?」

既に三本目を呑んでいる父親が、縁に着いた泡をなめとりながら「そうかな?」と小首をかしげる。

「へへへ、息子が十八歳になったかと思うと、なんか、お酒がとっても美味しくってさ、するする入っちゃうね?」

「当人より羽目を外し過ぎないでよ」

「はいはーい、…あれ?」

「あれ」

会話の途中、お互いの口から頓狂な声が漏れた。ぴんぽんと、ドアホンの音が鳴り響いたのだ。お互いの顔を見合わせている内に、もう一度ぴんぽんと、音が鳴る。

宅配を頼んだ覚えは無いので、恐らく、時々暮れにやってくる、牛乳か新聞のセールスだろう。

父親が、へべれけになりながら「断ってくるね!」と楽し気に言い出したのを制し、豪星が玄関に向かった。

適当に断って、直ぐに帰ってくれれば良いけど…と、心配げに扉を開けると。

「あ、豪星、こんばんわ」

「………あれ!?龍児君!どうして此処に!?」

「おっさんに、お前んちの住所と地図聞いて、きた」

「あ、そうなの?ええと?」

予想だにしない人の姿を見つけて、三回ほど目を擦った。若干ひりつく瞼を開けて前を見るが、やはり、そこには龍児の姿があった。

自分の部屋の玄関と、龍児。何時もは取り合わせない光景に視界と思考が右往左往する。

「…あの、もう一回聞くけど、どうしたの?」

今日は教室でも廊下でも姿を見掛けなかった(恐らく双子に構い倒されていたのだろう)ので、てっきり、今日は彼の姿を見ずに終わるかと思いきや、こんなところで顔を合わせる事になるとは意外過ぎる。

しかし、龍児が此処に現れた意図が分からず、三回目の「どうしたの?」を繰り返していると、その内、鼻先を少し染めた龍児が、すっと俯き、肩にかけていた鞄から何かを取り出した。

それを、「これ」と言って、豪星に手渡してくる。

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