理由を尋ねようとした豪星に、須藤が「それ以上は聞くな」と歯止めをかける。尋ねようとした色々な疑問が瞬時に止まり、息がひっくり返りそうになる。

喉元が落ち着くと、今度は不機嫌が腹の底から上りあがってきた。あからさまに首を背けた豪星に気づいたらしい須藤が、ふと苦笑する。

「すねるな、豪星」

「だったら教えて下さい」

「お前が俺に聞いたって事は、龍児に尋ねても教えてくれなかったんだろ?」

「………」

「じゃあやっぱり言えないよ」

悔しいのでも、悲しいのでも、寂しいのでもない。気に入らないというのが近く、しかしそれも正解ではない。この機嫌の正体はなんだろう。

唇をとがらせた豪星に、須藤が「そんな顔するな」と宥める。

「お前らが笑っている為には、聞くも見るも、いらない事がいっぱいあるんだ、だから聞くな、…龍児の為にも」

「………」

「何時か龍児が、自分から言い出したくなった時に聞いてやれ」

そっぽを向いたまま、豪星は沈黙を貫く、が、不意に隣が動く気配がして、慌てて目をやった。どうやら、龍児が寝入ったまま向きを変えたようだ。

すうすう眠っている龍児の顔は、何時もよりあどけない。

幼さの残るその顔には、出会った時よりも、多くの謎が渦巻いているような気がした。

それが何時豪星に知らされるかも、謎めいたまま。

--ああ、そうか。

今の心情に一番似合うそれは、何処にも出口の無い、…不安なのかもしれないな。





ゴールデンウィークの残りを猫汰と家で過ごして終わり(渡した土産については、思い切り感動していた、一生大事にするなどと言い出していたので、是非使って下さいと、もったいないので釘を刺しておいた、多分、今度の弁当にでも使われているだろう)数日後、ほっと一息ついた頃、学校から帰ってきた豪星に、父親(そういえば、猫汰が泊まりにきた時、なんでこの人行ってもないのに、まるで自分が行ってきたかのように遊園地の口裏合わせが出来たんだろう、謎だ)が唐突に「出掛けるよー」と行って玄関に向かった。

帰ってきたばかりだし、次郎の散歩は父親が行ってくれている筈だ。何事だと首をかしげていると、豪星の疑問に気づいたらしい父親が、おいおい、みたいな笑い方で、豪星の居る部屋の真ん中へと出戻ってきた。

「誕生日のお祝い買いにいくよ」

「…あ、そうか」

言われて漸く気がついた。いや、知っていたのだが、唐突に言われ過ぎて一瞬何事かと思った。主語を先に言わない父親も悪いのだが。

「ていうか、去年の俺の誕生日って、父さんどっか出かけてたよね?当日は電話で済ませてたけど、何してたの?」

「……えーと、まぁ色々、それより豪星君!今日は誕生日だし、欲しい物あればどこか寄って買ってあげるよ?」

「蒸しパンケーキで良い」

「はははー、またそれかー」

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