龍児が「それ」と言って、しきりに気にしたのは、土産の袋に入れて貰った調味料のセットだった。

「お前のか?」と聞かれ、直ぐに否定する。ちょっとだけ考えてから「友達にあげるんだよ」と誤魔化してみたが。

「アイツか」

「……あいつって」

「あ?アイツに決まってんだろ?」

「…う、うん」

名前は直接言っていないが、雰囲気で、猫汰を指している事がありありと分かる。早々と、送り先がばれてしまったようだ。

今度は素直に頷くと、双子云々の話をした時よりもひやりとした空気が、龍児の機嫌に注ぎ込まれる。

「えっと…お土産あげるって約束したから」

「…ふーん」

しかめ面から無表情になった龍児が、豪星の腕に下げられた袋を半目で見下ろしてから---ぱちん!と、それをを指で弾いた。





閉園のアナウンスが場内に響き渡り、急いで出入り口に向かうと、途中で雨が降ってきた。

余計に急いで車に向かうと、荷物(結局龍児は土産を買わなかったので、残ったお金で後日ゲームを買うことにしたらしい、すごく嬉しそうだった)を後ろのトランクに詰め、忙しなく車内にもつれこんだ。

一日の疲れがそこで箍を切り、椅子の上でくたっと体の力が抜ける。車が発進して、暫く発つと凄く眠くなってきた。

隣で、ふう、と龍児がため息をつくのが見える。どうやら、眠りに誘われているのは豪星だけでは無いようだ。

車内の気だるさを察知したらしい須藤が「お前ら、着くまで寝てていいぞ」と言ってくれたので、「ふぁい」と、有り難く窓の縁に頭と腕をつけた。

変な格好になってしまったが、睡魔の方が強くて、その格好でうとうととまどろんでしまう。これは、起きた時にとても首が痛むなと思いながら、窓の外に目をやった。

電灯のように、暗くなっては明るくなる景色を、繰り返し眺める。

豪星が最後に見たのは、煌煌と輝く、街灯の光だった。





---はっと、意識が浮かび上がる。一瞬何処にいるのか分からなくて、回りを見るために顔を上げようとしたが、その際首がぐっと痛んで眉をしかめた。

あたた…と、首に手をやる豪星の前方で、誰かが「起きたか?」と豪星に尋ねてきた。

数秒経って、少しだけ痛みの緩和した首を、伸ばすように引き上げる。丁度、バックミラー越しに、須藤がこちらをのぞき込んでいるのが見えた。

「おはようございます……」

「ははは、豪星、まだ朝じゃないぞ」

何時かに、逆のやりとりをしたような覚えがあった。その事に苦笑していると、同じ事を思ったのか、須藤が同じく控えめな笑い声を上げた。

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