服屋から少し離れた、飲食店が並ぶ一角で漸く食事(龍児対策の為ビュッフェだった、ちなみに料理の三分の一くらいが消えて無くなったので、店の人が非常に驚いていた)にありついてから、会計を済ませて外に出ると、須藤が全員の後ろで「おお、そうだ」と声を上げた。

何事だろうかと振り返ると、丁度、財布からお札を数枚、抜き取っている姿が見えた。

「今のうちならまだ空いてるから、お前ら先に土産買っとけ」

そう言って、抜き取ったばかりのお札を豪星と龍児に手渡してくる。

入園料や食事代まで出して貰ったので、さすがにお土産は自分で買おうと思っていたところに渡されたので、丁重にお断りして返そうと思った。が、「気にするな」と切り上げられ、上げた腕がそのまま宙ぶらりになってしまう。

これ以上返そうとしても、絶対に受け取ってくれないな。

返却はそうそうにあきらめ、かわりに、くっとはにかんで「有り難う御座います」と礼を言ってみた。

それが一番の正解だったらしく、須藤がぽんぽんと豪星達の頭を優しく叩いた。

それから「煙草吸ってくるなー」と言って向こうの喫煙ブースに消えていってしまった。

そっと服の中にそれを忍ばせ、「行こうか」と言って、龍児の前を歩く。同じように、貰ったお金を服に隠した龍児が、こくりと頷き豪星に続いた。

数軒ある土産屋の内、外から覗いて一番無難そうな店を選ぶと、自動ドアを潜って中に入る。

扉が締まり切る前に、早速、クッキーの箱や、チョコレートの箱に囲まれ、まだ来店して数秒も経っていないのに目が忙しなく動いた。

豪星は向かって右に、龍児は左に興味が割れて、お互い合図もなく左右に分かれた。豪星が興味を持ったのは、女性が好きそうな、自然食材にこだわった調味料ブースだ。

小綺麗な彩りと形をした器の中に、数種類のハーブや紅茶、珈琲豆、胡椒や、塩や、ソース、砂糖、もしくは、豪星が見た事も聞いた事もないような調味料が小振りに詰められ、リボンや透明なケースに包まれていた。なんとなく、こういうのは猫汰が好きそうだなと思った。

ちょっとお高い値段だったが、元々、土産は父親と猫汰の分しか視野に入れていないので、ひとつくらい奮発しても大丈夫だろう。

その一角を、左右に行ったり来たり、何度も眺めて吟味してから、綺麗な器に調味料が五種類入ったセットを手に取った。

猫汰へのお土産はこれにしよう。これなら、豪星みたいなしょんぼりセンスの男が選んだ物でも、あの高級マンションに上手く溶け込んでくれるだろう。

父親の分は、まぁ、塩せんべいの大袋でも買っていけば良い。自分も好きだし、自分土産兼用ってことで。

猫汰への土産と、お菓子のブースで父親兼自分用の土産を、近くに積まれていたカゴの中に放り込んで持つと、次に龍児の姿を探した。

装飾品のブースから、ぬいぐるみ、ハンカチなどの布類までまわって、もう一度お菓子のブースに戻ると、漸く龍児の背中を見つけた。

どうやら、お互い反対方向に回っていたらしい。道理で見つからなかった訳だ。

龍児はといえば、山のように積み重なったチョコレートや、クッキー、せんべいなど、定番のお菓子の間をいったりきたりしながら、じぃっとそれらを真剣に眺めている。

豪星が近づいて、その肩を叩くまで、全くこちらの存在に気づかない真剣ぶりだ。

肩を叩かれた瞬間、相当驚いたらしく、ば!と半目で振り返った龍児だったが、豪星と分かるなりすとんと気迫を削いだ。

「決まった?」と尋ねてみるが、ぶんぶん、首を大きく横に振られた。

「迷ってるの?」

「……ん」

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