「あれ」

もう、すっかり機嫌の直った龍児が指さしたのは、お化け屋敷の直ぐ近くにあるジェットコースターだった。

なにやら、近くの看板に「回転が売りです」と書かれている。

ご丁寧に、人が椅子に乗ったまま、宙に全回転するイラストまで掲載されている。…次はあれか。

「が、がんばる」

「おう!」

引いた声を上げる豪星の隣で、先ほどの涙をどこに隠したのか、龍児がはつらつとした声を張り上げた。

なんだか、恐怖がミルフィーユしているなと苦笑しながら、先を急かす龍児の手に連れられ、豪星も足の幅を強めた。





約束の時間に間に合うよう待ち合わせ場所へ赴くと、二人が既に待機していて、豪星と龍児の姿を見つけると楽しそうな笑顔で手を振ってくれた。

そのもう片方の腕には、いくつかの袋がぶら下がっている。その数が特に多い沙世の顔は、至ってご機嫌そうだ。

二人に近寄ると、沙世が直ぐ「久しぶりにお洋服をたくさん買えて楽しかったわ」と、ほくほく、袋の中身を口頭で明かしてくれた。

沙世が持っているものから、須藤が持っている袋まで、大体が女性らしい装丁をしていたので、この袋の中身はほとんど沙世の物なのだろう。

控えめでも女性だなと、ほっこりしてしまう。

「おお、そうだ、龍児、飯食う前にお前も服買ってこい」

それじゃあ早速。という所で、ふと思い出したように須藤が言った。

名指しされた龍児は、食事にありつけるという期待を一気にずり下げられ、嫌そうに須藤に振り返った。その額を、須藤がぱちん!と指で叩く。

「こんな時でも無いと自分で選んで買わないだろお前、何時もいつも何でもいいとかどうでも良いとか言いやがって、高校生になったんだから、自分の好きな服の一枚くらい持てや」

「いらねー」

「うるせぇ、毎日家で穴の開いたシャツばっかり着やがって、お前にも彼女が出来るかもしれないんだから身だしなみくらいきちんとしろ」

「いらねー」

「だから、うるせぇって、ほら、豪星、お前の分もついでに買ってやるから、こいつ引っ張って買ってこい」

「え、俺もですか?」

「お前が行けば着いていくだろ、ほら、腹減ったからさっさと選んで来い」

それなら、食べた後でも良いのでは?という、豪星の素朴な疑問は、「ぱんぱんになった腹で服が選べるか」という理にかなった理由によって却下された。

とはいっても、豪星もあまり服に頓着が無いので、引っ張ってはいけるけれど、似合う服どうこうは選べないのだが…、穴の開いた服よりはマシだと須藤に背を押され、適当な店に押し込まれてしまう。

どうしたもんかと龍児を見れば、まだ、どことなく嫌そうな皺が顔に寄っていた。全くもって、服屋に失礼な二人組が入ってきてしまったものだ。

こんな時猫汰が居れば良いのだけれど、こういう時には居ないのが現実というものだ。

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