向こうで、止めきれない足をそわそわ足踏みさせて待機している龍児の元へ走ると、豪星の腕をわしづかんだ龍児が、ぐいぐいと、片方の手を宙に指しながら、豪星をつよく引っ張る。
「どれに乗りたいの?」と聞けば、揚々とした声が「あれ!」と、抽象的に叫んだ。
龍児があれと言って指したのは、赤色の棒が三本、空に向かって立てられているアトラクションだった。
他の設備よりも若干背丈は低いが、聞こえてくる悲鳴を聞く限り、そこそこ絶叫出来そうな印象を受ける。
龍児が我先にと、設備の列に並び、人が空に向かって上り、悲鳴をあげて落ちてくるのを、固唾を飲んで見守っていた。
以前遊びに行った小さな遊園地とは比べものにならない迫力と人の声に、知れず興奮しているらしい。
列は出来ていたが回転率が早いらしく、ほとんど雑談する事なく豪星達の順番が回ってきた。
三カ所ほど設置された横並びの椅子に座り、スタッフが端から順に、引き上げられていた安全装備を下ろしていくのを、今更、どきどきしながら待機する。
ひとり、ふたり、龍児、次に、豪星の分まで、それががりがりと音を立てて下ろされると、途端ひゅ、と、心臓が跳ねた。
直前にならねば緊張しないなどと、自分も大概鈍感だ。
「…このまま、上と下にずどんといくのかな」
「みたいだな!」
「ちょっと怖くなってきたかも、龍児君は大丈…夫そうだね」
「おう!」
豪星の不安を余所に、龍児はこれからの展開が楽しみで仕方がなさそうだ。
恐怖を同感してもらえないと一層不安になってきて、ちらりと、豪星の傍で動きを止めたスタッフになんとなくの視線を向ける。
スタッフのお兄さんのまた傍には、腰くらいの高さの台座に、すごく、不吉な雰囲気を漂わせる赤いスイッチが置かれていた。
…あのスイッチってまさか。
恐怖がピークまで駆け上ったのと同時に、開始のベルが鳴った。
豪星と目の合ったスタッフのお兄さんが、豪星の顔を見るなり、にっこり笑って、----手元のスイッチを、がん!と、上から押しつぶした。
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