「此処、俺が作ったんだ!」

「え!?」

予想外の申告に、瞼が全方向に広がった。こんな事が昨日もあったなと、驚きながら考える。

「おかゆだけじゃなくて、こんなに綺麗な卵焼きも作れるんだね!すごいじゃないか龍児君!わー!もらうもらう!」

龍児の意外な一面二面に何故かはしゃいでしまう。

箱と一緒に貰った割り箸で、早速龍児お手製の卵焼きに箸先で触れると、ふにふに、柔らかい断面が、割り箸を優しく押し戻した。

卵を焼けば大抵フライパンの中で撹拌され、そぼろのようになって完成される、全く上達しない自分の腕前とは雲泥の差だ。

「すごい、ふわふわだ、…ん、美味しい、俺、塩辛い卵焼き好きなんだよね」

ちなみに、猫汰は何時も(斬新さはさておき)甘辛い卵焼きを作る。

塩辛い方が好み、というだけで、甘辛い卵焼きも嫌いでは無いので、猫汰に塩辛い方が好きだと伝えた事が無かったのを、今更思い出す。

もくもく、卵焼きばかり食べていると、運転席と助手席の方から吹き出す音や、くすくすと微かに笑う声が聞こえてきた。

卵焼きに夢中になっていた豪星も、卵焼きを食べている豪星を見るのに夢中になっていた龍児も、気配に気づいて顔を上げる。

バックミラーを見ると、須藤が、ちらちらこちらに視線を寄越しているのが見えた。

「よかったなー龍児、豪星が褒めてくれたぞ」

「だからあんな事してたのねー」

主語の無い話に何のことかと理解しかねたが、龍児はそうでも無かったらしく、運転席を片足で蹴り「前、うるさい!」と怒鳴った。その顔は、耳まで赤い。

「おい豪星、聞いてくれよ、こいつな?今朝弁当作る時に俺も作りたいって言い出したんだけどよ、やたらと卵焼きばっかり焼いて、綺麗なやつだけ全部残して、焦げたやつはひとりでぺろっと食べてやがったんだよ、そうかそうか、最近卵焼きが作れるようになったから、それをお前に褒めて欲しくてあんな事してたんだな…って、おいおい龍児!そんなに蹴るな!分かった分かった、黙っててやるから!」

「もう言っただろ!」

「悪かったって!」

じゃれるようなやりとりに、ほっこりと笑みが浮かんだ。

なんてほほえましい光景なのだ、自分が絡んでいると思うと、余計にぬるい気持ちになる。

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