車が高速道路に乗り上げ、時速を上げて、速度の感覚が薄れるまで走った所で、車の後部席、豪星の隣に座っていた龍児が唐突に「腹減った」と言い出した。
一歩遅れて、龍児の腹の虫がぎゅうぎゅう鳴き始める。車に乗っても、彼の身体は変化されない様子だ。
運転していた須藤が、「はいはい」となれた口調で相づちを打ち、助手席に乗っていた沙世に「おい、くいもん渡してやれ」と前を見たまま促した。
直ぐ、沙世が、自分の膝に乗せていた大きめの鞄を開け、中を探ってから、シートベルトをしたまま器用な動作で後部座席に半身を寄越した。
「はいはーい、おやつのお弁当、作ってありますよ、二人でどうぞ」
おやつの弁当、とは、また斬新な言い回しだ。
渡されたのは須藤家ではお馴染みの、抱える程大きなタッパー、二箱分だった。少し透けて見える表面から、色々な物が詰まっているのが見てとれる。
豪星がそれらを受け取り、その上の段を、龍児が横からひょいと持ち去っていく。お互いの膝にそれを乗せ、ほぼ同じタイミングで蓋を開け、豪星だけ声を上げた。
豪星の方は主に炭水化物が入っていて、彩りの良いサンドイッチや、色んな具材の混ざったおにぎりや、変わり種の乗ったおいなりさんが、所狭しと敷き詰められていた。恐らく、龍児の方はおかずが詰まっているのだろう。
「お昼は向こうで買って食べる予定だから、そのお弁当は全部食べちゃっていいからね」
この量を此処で消費するのは難しいんじゃ、という疑問は、隣に座る食事処理班のお陰で一瞬にして消え去った。
龍児は、自分の膝に乗せた弁当に早速食らいつく、かと思いきや、何故かそわそわちらちら、こちらを伺ってきた。
最近少しずつ芽生えてきた彼の遠慮が、豪星のいただきますでも待機しているのかと思いきや。
「これ、こっち、こっちも食え、豪星」
「ああ、おかず?うん、後で貰うね、でも、先にそっちは食べてていいよ?」
「ん、…うん、でも、こっち先に食え」
「え?なんで?」
「…ここ」
何故か恥ずかしそうに、しかし若干嬉しそうに、龍児が「ここ」と指さしたのは、きれいな色をした卵焼きの列だった。
中に、白い練り物や、明太子などが挟まっているものもある。中々綺麗な出来映えだ。
何も考えずに、見たまま「美味しそうな卵焼きだね」と言えば、途端、龍児がぴん!と背を伸ばして、箱ごと豪星に近づいてきた。
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