「ダ…豪星君はどれにするー?」と聞かれ、やっと、メニューを差し出されたのだと気付く。
慌てて、写真の無いメニューの表面を目でなぞった。
今度は、お勧めも一番人気も書かれていなかったので目星が付けにくかったが、悩んだ末、シラスといくらの乗った丼に決めた。
猫汰が「お揃いだね!」と、はしゃいだ声を上げる
「…ていうか、ここ、酒の揃えがいいな、ちょっと飲んじゃおうかなー…」
「旅先でも羽目を外しますね」
「うーん、ごめん、好きなの!」
「知ってます」
「へへー、…あ!一番はしに絶壁がある!ちょ、やっぱり頼む!すみませーん!」
猫汰が、カウンターの向こうに手を振ると、直ぐ、注文票を持った店員が伺いに来てくれた。
先ほど決めた海鮮丼を二つと、猫汰だけ、お酒をひとつ注文する。
お互いの身長や着物の効果もあってか、店員は何の疑いもせず、注文を取り、さっと持ち場に戻って行った。猫汰が、しめたしめたと笑う。
程なくして、注文した品が届くと、今度は豪星の方が「あ!」と、声を上げた。
マスとグラスに入った酒を、そそっと啜ろうとしていた猫汰が、豪星の声にびくりと戦慄き「どうしたの?」と頓狂な声で尋ねてくる。
猫汰の方には振り向かず、豪星は器を指さして、再び「これ!」と声を上げた。
「大分前にテレビで見たんです!同じ店じゃないと思うけど…でも、すごい美味しそうだなって思ってたんです!実際に食べられる日が来るなんて!」
「そうなの?良かったねぇダーリン、本物はテレビで見るよりおいしそう?」
「はい!とっても!」
早速、手を叩いて、盆に乗ったハシを二つに割った。
それを一度、左手に避難させてから、右手で、傍に置かれた醤油を手に取る。
店員から、こうやって食べるのだと、教えてくれた通りに手を進めて、やっと、一口目を頬張った。
ねっとりとした小さな鮮魚と、あさつきと、味の濃い醤油と、白いご飯が、噛んだ瞬間、これ以上ない程の一体感を披露する。やばい、超美味い!
隣で「おおお!」と、猫汰も感嘆の声を上げている。そのあと、さっと酒を一口飲んで、また雄叫びを繰り返している。
じっと、その様を数秒眺めていると、こちらの気配に気づいたらしい猫汰が、豪星の目の前で、酒の入ったグラスを掲げて見せた。
「豪星君も、舐める?」
…羨ましがっていたのが、バレバレだったようだ。
こくりと頷き、貰った杯を、ちび、と舐める。そして。
「……うわあ!合う!めちゃくちゃ合う!も、最高!」
酒への抵抗が完全になくなった舌で、思い切り賛辞していると、へへ、と猫汰が悪戯な声で笑った。
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