エンディングでは、スタッフ紹介と共に、人形達が自分達の建てた家にたくさんのお金を持って戻っていく映像が延々と流れていった。
作りが細かいな、と、のんびりそれを眺めながら。
ふと。
「…ね、龍児君は家出じゃなかったの?」
龍児の人形が家に帰るのと同時に、ぽつりとつぶやいた。
不意打ちに、龍児がびくんと、全身で波打つ。
「俺、ずっと疑問だったんだ」
「………」
畳に視線を落とした龍児が、い草の隙間に、かつ、かつ、と爪を差し込み、ささくれを作り始める。
言い難い雰囲気を落としてしまった事に気まずさを覚えたが、それでも、開いた口は止まらなかった。
他人の事情には深く触れない方が良いと思っていた。それは何事においても、豪星が聞くような事ではないと思っていた。人の事情は人それぞれだと思っていた。けれど。
龍児と過ごす度、その疑問は、豪星が思っていたよりも日々、大きく、大きく膨らんで、今まさに、飲み込めなくなってしまった。
「どうしてずっと須藤さんの家にいるの?学校だって、須藤さんの家から通ってるよね?君の帰る場所はどうしたの?君は…」
---かち!と、目の前が突然真っ暗になった。それが視界ではなく、ゲームの画面だった事に気づいたのは、数秒経ってからだ。
ゲームを消した龍児は、組んでいた足をひょいと解いて立ち上がった。それから、豪星を見下ろして、へらりと、力なく笑う。
とても、龍児らしからぬ笑い方だった。
「…龍児く」
「ごめん」
龍児は、豪星の問いに、はいともいいえとも答えず「そろそろ飯食いに行こう」とだけ言って去っていった。
残された豪星は、暫く、真っ暗になった画面を眺めたあと。
…自分の爪を、かつ、と、い草の中に突き立てた。
熱が平熱になってまた次の日、さすがにもう大丈夫だから遊びに行きましょうと、三回提案したところで漸く腰を上げてもらえた。
須藤が出してくれた車の中で、相変わらず「ほんとに大丈夫なのか?豪星、病み上がりなんだから無理するなよ」とか「そうよ、もうちょっと寝てても良いのよ、無理しなくて良いから」など、しきりに心配されたが、行きたいんですと苦笑混じりに言えば、それ以上心配が車内に駆け巡る事はなくなった。
朝早くに決まったが、みんなでばたばたと準備をしてから出発したので、時刻が既に九時を回っていた。
以前の予定では、もう一時間早い時間に出掛ける筈だったので、今日は遅刻気味になってしまった。
何から何まで自分の所為で遅延して行くことに若干の引け目を感じたが、それを知ってか、もしくはただそう思っただけなのか、須藤が「この時間なら開園に並ばずに済みそうだな」と、からからとした声で笑うので、人知れず安堵する。
須藤家の、この、見えない穏やかさが、豪星はとても好きだったりする。
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