…みっともなくても、いいか。
そう思えたとき、胸にこみ上げる物があった。この、不思議な感覚はなんだろう。
暫く、ぺちぺち、豪星の頬を軽く叩いていた龍児だったが、突然「そうだ!」と叫んで手を離した。
何事だと見上げるが、その視線が追いつく前に、龍児がばたばた!居間から勢いよく出て行ってしまう。数分後、戻ってきたかと思えば。
「おかゆ作ってみたんだ!」
「え!?龍児君が!?」
「おう!」
予想だにしなかった事を、自慢げに披露され仰天してしまう。
龍児と料理。食べることなら密接だが、作るとなると畑違いだ。
「沙世と出たあとに作ったんだ、あっため直したから、食べられそうなら食えよ」
手に器と匙を持ちながら、どしん!と、器用にあぐらをかいた龍児が、それを豪星に突きだしてくる。恐る恐る受け取り、中身を覗いてから…あれ、と瞼を瞬かせる。
「…凄い、美味しそう」
椀の中には、白い光沢と黄味の光沢が、良い塩梅で混ざり合い、彩りに青菜が添えられていた。食欲はまだ湧かなかったが、目が、美味しそうだと認識する。
「おっさんも沙世も料理好きだから、俺もたまに手伝うんだ、簡単な物なら作れるようになった」
「そうなんだ!すごいね」
「…そ、そうでもないぞ」
豪星が素直に褒めると、予想よりも賛辞の反動が大きかったらしい龍児が、ものすごく照れた様子でそっぽを向いた。その間に、早速かゆを口につける。
「わ、たまごの味がする」
「美味しいか?」
「うん、おいしい」
食べやすい味付けのお陰か、湧かない食欲でもするすると口に入っていった。特に気分が悪くなることも無く、中身を全て食べ終える。
空になった器をみた龍児が、きゅ、と、嬉しそうに口角を押し上げた。
礼を言いながら器を手元から下げて貰い、一端向こうに戻り、水と薬を持ってきた龍児からそれらを受け取ると、喉の中にぐっと流し込んだ。
気分は、寝て起きる前よりもずいぶんと楽になっている。
ぺちぺち、豪星の額をおもむろに叩いて「もうそんなにあっつくないぞ」と、甲斐甲斐しく確認してくれる龍児に、もう一度礼を言う。
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