額がひやりと冷える感触に目を覚ました。ごわつく視界で、明かりの灯った部屋を見渡すと、誰かが傍に居る事に気づく。
咄嗟に手を伸ばしてつかむと、相手が「うお!」と、声を上げた。この声は、龍児か。
「大丈夫か?」と尋ねられ、今更、縋った手が強ばっていた事に気づき、慌てて手を離した。
目を擦って、大分力の戻った半身を起こすと、背中やら喉やら、しとどに汗が流れて落ちた。
同時に、額からぽたりと何かが落ちる。拾ってみると、湿り気を帯びた布だった。龍児が熱冷ましの為に、額に置いてくれたのかもしれない。
慌てながら「まだ寝てないとダメだぞ」と胸を軽く押してくる龍児に、漸く、笑って「大丈夫だよ」と言ってあげられた。
胸を押していた龍児がぴたりと止まって、あからさまに、ほっとした顔を向けてくる。
「顔色、良くなってきたな、…良かった」
マスクをずらして、あどけない笑みを浮かべる龍児だったが、すっと口元を引き結び、豪星の顔を見つめてくる。
どうしたのと、豪星が尋ねる前に「なぁ」と、龍児が口元をほどく。
「どうして泣いてたんだ」
びくりと、龍児の目を見たまま固まってしまった。暫く目を見開いたまま硬直して、やがて目をそらす。
龍児が再び「どうして」と、遠慮がちに問うた。
「…もしかして、ずっと傍に居てくれたの?」
「ん、一回出てったけど、すぐに戻ってきたんだ、…寂しい、かな、って、思って」
「…言う通りだよ」
龍児の言葉に確心をつかれ、直ぐ、本音が零れた。今度は龍児が驚いたようで、開けた口をくっと閉じた。
「…子供の頃、風邪を引いても一人きりで目が覚める事が多かったんだ、別に、何時も一人きりで起きる事なんて珍しくないし、気になんてしてなかったのに、べつに、訳もないのに、それでも、風邪で苦しくて、目がさめたときに、誰もいないことが、なんでかその時は、しょっちゅうつらくって」
「………」
「な、泣いてたんだ、俺、…そっか」
「…大丈夫か」
感傷的な事を喋っていた所為か、つられて視界が滲む。その目の前で、龍児が手を開いて近づけてきた。
みっともなくて顔が熱かったけれど、その手が頬に触れたとき、不意に、羞恥が溶けて消えた。
「…うん、へいき、今日は龍児君がいるもんね」
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