振り子のように、頭をふらふらさせながら薬を飲んでいる様を、龍児が固唾をのんで見守っていた。

かつてない自分の姿に、混乱しているのか、心配しているのか。どちらにせよ、今の自分の姿がとてもみっともなく思えてきて、瞼を半分に落とした。

それに気づいてか、唯体調をおもんじてか、沙世が龍児に「行きましょう」と声をかけた。

当然、龍児は嫌がったが、「移っちゃうからダメよ」とか「そっとしておいてあげないと眠れないでしょ」と諫められ、最終的にはしぶしぶ沙世の後を追って居間から出て行った。

居間の電気が、沙世の手で明かりを失う。

「………」

陽の出ている時間特有の、薄い暗闇に一人取り残されると、漸く落ち着きを手に入れたが、今度は取り巻く静けさが、無性に気になってきてしまった。

須藤達は声も聞こえないくらい遠くにいってしまったのか、それとも、会話を控えているのか、どちらにせよ、豪星の耳には、自分が身じろぎをすると擦れる布の音と、時計の秒針が鳴らす音しか聞こえない。

こち、こち、こち、と、定期的に動く針の自転が、どんどんと大きく聞こえてくる。

そういえば、こんな音だったなと、ふと昔を懐かしんで、---怖くなった。

目線だけで誰かの姿を探すものの、当然、出て行ったばかりのそこに誰かが立っている訳は無かった。

「………」

傍に居たらいたで邪魔に思っていたくせに、居ないなら居ないでこんな事を思うのは、非常に勝手だと分かっているが…こんな事なら、眠れなくても落ち着かなくてもみっともなくても良いから、龍児に傍に居て貰えば良かったと思う。

いっそ、布団から出てみようかと行動を試みたが、上等な布団の重みにすら負ける体たらくだ。

唐突に泣きそうになって、かろうじて動く顔を布団の縁に隠し込む。

中途半端に暗いより、いっそ、何も見えない方がましだ。昔からそうだった。

どこにもいない人を思うよりは、何もかも真っ暗になってしまえばいいのだ。そうすれば、いつの間にか眠っている筈だから。

けど。

けど、怖い、寂しい、とてもとても、嫌な時間だ。

時計の音が聞こえる。豪星の何かを蝕んで腐らせる、怖い怖い音が聞こえる。

怖い。怖いよ。誰もいない。まっくらなところに僕がひとり。

いつの間にか、自分の手のひらが小さくなっていた。

四角いアパートの一室で、子供の自分が、湿り気を帯びた布団をかぶって、目を一生懸命に閉じている。

水が飲みたいけれど、起き上がれない。電気もつけられない。

ひとりきりの暗闇は、子供ひとり飲み込むなど、ひどく容易いことのように思えた。

………。

お父さん、どこにいるの。

そう問いかけたとき、誰かが豪星の頭をなでた気がした。

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