顔を真っ白にさせたまま、携帯を耳から離し、すがるような目で父親の方を向いた。
その気配を察知したらしい父親が、きょとんと、とぼけた顔で豪星の顔を見返す。
「あの、…猫汰さんが」
焦った所為で、最後の最後、父親に状況を伝えられるかもしれない取り次ぎの間を、訳の分からない言葉に使ってしまった。
それに気づいたのは、すでに、携帯電話を相手に渡したあとだった。
父親は顔にはてなを浮かべたまま、受け取った電話を耳にあてると、しばらく、猫汰の話を聞いて。
「そうなんだよー!猫ちゃん、僕さぁ、豪星君とほとんどレジャーとか行ったことなくって、ゴールデンウィークにね?そう、僕がどうしてもってお願いしたの、色んな所も寄ろうよーって、うん、うん、ごめんね?」
まるでそれが初めから用意されていたかのように、状況に合わせた話を展開し始めた。
吃驚しすぎて豪星の方が固まってしまう。
「うん、うん、やだな猫ちゃん、豪星君の事ちゃんと信じてあげなって、大丈夫だいじょうぶお土産いっぱい買って来るから!うん、うん、それじゃあ豪星君に変わるねー」
話を適当に切り上げると、父親がぽいと豪星に電話を返した。
その際、してやったり顔で、父親がにやにや上目使いで笑った。
電話を耳に戻した途端、「ごめんね…」と、しょんぼりした声が豪星の耳を覆う。
「えっと…」
『…俺、さっきね、ダーリンが、まさか、ゴールデンウィークの予定、俺よりも誰かを優先して、しかもそれがりゅーちゃんだったりしないかなーとか、ちょっとでも疑っちゃって…』
わぉ。全部ビンゴ。
『でも、おとーさまなら仕方ないよね、分かった、そういう事なら、連絡ちゃんと待ってるから』
「はい、あの、すみません…」
『ううん!良いの!俺こそ変に疑ってごめんね?そうだよね、よく考えたら、彼氏放って他の男とゴールデンウィークに遊びに行くとか考えられないよね?俺、ちゃんと信じてるから!』
「…ははは、ありがとうございます」
『じゃあ、お土産とお土産話、楽しみにしてるから、日にちが決まったら、おうちデートしようね』
「はい、…了解です」
『うん!それじゃあ俺、もう寝るね、明日…はまだ無理かもしれないけど、明後日かその次くらいには学校行けると思うから』
「はい、分かりました、お大事にしてください」
『うん、じゃあね、おやすみダーリン』
落ち着いた動作で電話を切り、いったん深呼吸をしてからそれを机に置くと、置いたそれを父親がつかんで、ふらふらと宙に降ってみせた。
それから「ダメじゃないか」と、にやにや顔のまま、それを豪星に突きつけてくる。
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