どちらにせよ、体調が悪くなる前にとっとと寝てしまうのが得策だろう。

近くでごろ寝をしながらテレビを見ていた父親の脇を抜け、豪星は風呂の準備をする為奥に向かった。が、床に置いた豪星の携帯が、再び音を鳴らして豪星を呼んだ。

何か言い忘れでもあったのかと思いきや、表示されたのは猫汰の名前だった。

三コール程音を鳴らしてからて電話を取ると、直ぐ、『ダーリン!』と、はしゃいだ声が右から左へ流れた。

「こんばんわ猫汰さん、もう大丈夫なんですか?」

『うん!昨日はありがとうね、あれから薬飲んでいっぱい寝てたら良くなってきたよ、あ、おかゆも、おかわり、帰る前に作ってくれたんだよね?ありがとうね、ちゃんと食べたから!』

「いえいえ、出来の悪い料理で申し訳なかったです、それじゃあ、安静にしてて下さいね」

『うん!…あ、待ってダーリン、今度のゴールデンウィークなんだけどさ』

切りの良い所でそれとなく終了させようとしたが、猫汰が滑り込むように次の話題をつないでくる。

『その頃にはもう治ってるだろうから、初日からそっちに泊まりにいっても良い?』

「あ、ごめんなさい、ゴールデンウィークは初日から……父親と出掛ける事になってまして、」

『え?そうなの?』

人と出かける事になった、と言いかけて、咄嗟に言葉を変えた。その出掛ける相手が、最近彼と大変折り合いが悪いからだ。

また前みたいに電話で言い合いになり、消化不良のまま電話が切れるのは心臓に悪いので、そうなる前に、無難な言い訳をして事を避けよう。

「えーと、二人で久しぶりに遊園地に行こうって話になって…、もしかしたらあちこちも寄って、2、3日、日を跨ぐかもしれないんです、また帰ってくる日にちが大体決まってから、改めて連絡しても良いですか?」

『自分でお金出すから、俺も行っちゃだめ?』

「えっ、…あの、すみません、ほんとにすみません、父親がどーしても、俺と二人きりが良いって言い出すんで」

『…ふーん?』

そのうち、猫汰が不審げな声をにじませ、数秒黙り込んだ。それから、くつと笑って。

『ねぇ、お父様に代わってくれる?』

まさかな振り方をされ、どっと冷や汗をかいた。

「あ、ええと、ちょ、ちょっと待って下さい、」

『お父様の笑い声がしたからテレビでも見てるんでしょ?三秒で代わって』

トイレに行っているんだ、とか、タバコを買いに行っているんだとか、クッションを挟ませる隙を見せず、猫汰が強い口調で豪星に迫った。

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