須藤は一旦電話口から口を話し、「なぁ龍児、そう思わないか?」を背後に向かって呼びかけた。電話が始まってから、これで三回目だ。
途端、「おっさん、何時までその話してんだ!」と、激が飛ぶ。須藤の機嫌が直る前に、龍児の方が切れてしまったようだ。
『という訳で、勿論俺等もついてくからな』
「構いませんけど…」
『だよなー?…っいででで!!龍児!後ろから蹴るな!ほら!代わってやるから!』
等々背後から攻撃が始まったらしく、痛そうに呻く須藤が、攻撃防止の為龍児に電話を繋いだ。
数秒間を空けた後、「よぅ」と、不機嫌そうな龍児の声が流れてくる。
「こんばんわ、龍児君、須藤さんにばれちゃったね」
「…ばれた」
非常に残念そうに声を落とす龍児には悪いが、豪星としては、何となくこうなるんじゃないかなと思っていた。
「お前と二人で行きたかった…」
「俺は、これはこれで嬉しいよ」
須藤の家に行く回数は多いが、須藤達と遠くへ出掛ける機会は早々無い。
慣れ親しんだ大人と友人と、共にレジャーへ出かけるのは、豪星的には二度美味しい事だ。
そう伝えると、まだ不服そうな雰囲気を漂わせていたが、その内、ふっと息を吐いて悪しさを解いた。
『…お前が嬉しいなら、いいや』
「うん、有難う、そう言ってくれると思った」
『むぅ』
豪星の言い方に、またちょっと拗ねたらしい龍児だったが、「もういいかー?」と、受話器の隙間から聞こえた途端、「おい!」という叫び声と共に、龍児の声が後ろに押しのけられてしまった。
恐らく、須藤が無理矢理電話を奪い取ったのだろう。二人揃って相も変わらず行動が強引だ。
「そんじゃ、お前ゴールデンウィークの初日の朝に何時ものところで待ってろ、そのまま回収して連れてってやるから、帰ってきたら二、三日くらいウチに泊まってけよ」
「分かりました、何時もすみませ…くしゅっ!」
「おい、どうした、大丈夫か?」
「はい、多分埃を吸ったんだと思います」
「そうかー?折角の遠くの遊園地なんて行くんだから、当日までに風邪ひくなよー」
分かりましたと言って通話を切った時、もう一度くしゃみが跳ねた。
鼻から垂れた水を近くに置いてあったティッシュで拭い、ゴミ箱にほおる。それでも、鼻がやけにむずむずする気がした。
最近掃除をさぼっていたから埃っぽいのかもしれない。
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