あとは電気を消して、豪星が退散するだけだ。部屋の時計を見ると、時刻は既に夜へと近付いていた。もう良い頃合いだろう。
スクール鞄を肩にかけて、最後の仕上げに部屋を消灯させると。
「…ダーリン」
辺りが暗くなるのと同時に、か細い声が豪星を呼んだ。どうやら起きてしまったようだ。ベッドの方から、ごそごそ、布切れの音が聞こえてくる。
暗闇に目を凝らすと、ベットの盛り上がりが適度に潰れて、猫汰が這い出ようとしているのが見えた。腕が、頼りない動きで、右へ、左へ、彷徨っている。
「だーりん、どこぉ…」
「猫汰さん、どうしました?」
電気を消したまま猫汰に近づくと、うろうろとしていた腕が豪星の胴の辺りをわしっと掴んできた。そのまま、顔が胸にひっつく。ほぅと、安堵する息が聞こえた。
猫汰が何も言わないので、暫くはその格好のまま動かずにいたが、その内、いじいじと、猫汰が掴んでいる手の指で、豪星を服越しに撫ではじめた。
「ごめん…、さっき、うつしたくないとか、言っといて、俺、こんなとこで、へばりついて」
「それは構いませんけど…」
「…あの、あのね、俺、今日、なんか、すっごくさびしくって」
「……」
「あさも、それで、どうしても声聞きたくなっちゃって」
「…そうなんですか」
「うん、うん、だから、今日、きてくれて、う、嬉しかった…っ」
猫汰の手の力が、弱いなりに、ぎゅうと籠る。胸に置かれた顔が、斜めから下に、隠れるように伏せられる。
豪星は、そんな彼を見ずに、じっと、窓の方を見ていた。ひときわ高いマンションは、地上に近い暮らしをしている豪星にはなじみ無い景色を、四角く彩っている。
「お願い、一緒に居て」
「………」
「さびしいの、一緒に、…いっしょに寝てよ、ダーリン」
猫汰が離れる気配は一向に訪れない。この調子でベットに行けば、シャワーも浴びさせてはくれなさそうだ。
…まぁ、いいか。
「いいですよ」
猫汰みたいな人でも、熱に苦しむ時は無性に寂しく思うのだ。そこに、何故か親近感を覚えた。
ベットに潜り込みながら、しがみついて離れない猫汰を見る。猫汰は再び意識を手放すまで、ひたすら「ごめんね」と謝っていた。
「いいんですよ」
こんな日に、ひとり部屋に置いていかれる気持ちは、よくわかるから。
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