弱弱しく指差されたキッチンに赴き、まずは買ってきた物を袋ごと冷蔵庫にしまい込む。

それから、隣のキッチンに立って、例のおかゆとやらを探すと、直ぐ、洒落た片手鍋がコンロの上にぽつねんと置かれているのに気が付いた。

蓋を開けると、中には粒の残ったおかゆが、冷めたままの状態で残されていた。

なんとなく気になって、洗い場に置かれていたスプーンでそれを掬い、ひとくち味を見てみると、これまでに無い程普通の、いや、むしろ美味しい味がして、おお、と驚いてしまう。

やっぱり、入れるものやアレンジが斬新なだけで、彼の料理自体は上手いのだ。才能の無駄使いとは、多分、この事を言うのだろう。

けど、いつもの激烈料理の方が舌になじんでいる所為か、不思議な物足りなさを感じてしまう。毒されているなと、しみじみ思った。

コンロを点火して適当に熱を入れてから、ぬるくなった所で火をとめる。それを、一度洗ったスプーンで適当な器に盛り込むと、手盆で猫汰の元へと運ぶ。

途中、椅子を一脚、ベットの傍に寄せ置いて、粥を入れた器を膝に下ろした。

「猫汰さん、持ってきましたよ、どうぞ」

「…ありがとう」

焦点迷う目線で天井の方を見ていた猫汰が、豪星の声に反応し、儚げな動作で半身を起こした。

ぽたりと落ちた汗を手で拭い、赤い顔を豪星に見せると、ぼうっと、豪星の膝に乗った器を眺める。

答えたは良いものの、頭が次の処理に追いつけていない様子だ。粥に手を出す気配も無い。

一指動かすのも億劫そうな彼に、思いつきで「食べさせましょうか?」と提案してみる。

一度、豪星の口元に視線を起こした猫汰が、よく分かってい無さそうな顔で、こくりと頷いた。

それじゃあ失敬して…と、匙の準備を始めた頃に、遅れて「え!?」と、跳ねた声を上がる。

「な、なに、何言ってるの…!?」

今更恥ずかしそうに身じろぎする猫汰に、あっさりとした声で「別に誰も見てませんよ」と匙を近づける。

「そういう問題じゃないから!」と抗議を上げる猫汰を無視して、さっと、口元にまでそれを到達させた。

「あぅ…」

羞恥か熱か、分からない呻きを零した猫汰だったが、暫くして、観念したように口を開き、匙にぱくりと食いついた。

もくもくと、簡素に噛み砕いて、こくりと飲み込む。

ふた匙目は、特に嫌がらず、雛のように口を開けて「ん」と再び咀嚼した。

中身が半分くらいになった所で、ふと思い出し「美味しいですね、このおかゆ」と言ってみた。

すると、猫汰が恥ずかしそうに、ぱっと目線を上げて豪星を見た。

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