来て早々押し返される羽目になるとは思わなくて、つい声がひっくり返ってしまう。

訝し気な豪星の声にあてられたのか、背を押していた猫汰の手の力が一旦弱まり、また「ちがうの」と、今度は焦った声で否定してくる。

なにが違うのだろうかと、振り向いた豪星が見た猫汰の目は、若干潤み、赤く火照っていた。

「お見舞い嬉しい、ほんとなの、でも、ダーリンに風邪を移したくないの、だからお願い、もう帰って」

しきりに「こっちきちゃだめ」や「移っちゃう」と、病人らしからぬ気遣いを見せるので、なんだ、そんなことでと、豪星の方が呆れてしまった。

気を遣っている筈なのに、いやいやと、まるで幼児のようなダダを見せる猫汰の腰を、前方から、両腕で掴んで持ち上げる。

結構重かったけど、以前にも試した事があるので歩けない事はなかった。

「うわぁ!?」と、不意打ちに驚く猫汰の下で「別にいいですよ」と、呑気に応える。

「お見舞いに来て移るとか移らないとかそもそも気にしてませんよ、その時はその時なんで、遠慮せず使って下さい」

「でも、でもっ」

「…いっつも思いますけど、猫汰さんって、健気と律儀がずれてますよね」

「なにがぁ…?」

「いいえ、なんでもないですよ」

短い距離を歩き切って、ベットに彼を下ろすと、腕にぶら下げていたビニールの袋の中身を直ぐに漁った。

横になった途端糸が切れたのか、苦しそうに息つぎを繰り返す猫汰に、なるべくやんわりとした声で「猫汰さん」と呼びかける。

「色々買ってきたんですけど、何か食べられますか?ゼリーとかもあるんですけど」

「はぁ…っ、うん?ぜりぃ?」

「はい、ちょっと食べた方がいいかなって思って、どうですか?」

「…あの、ごめん、あまいもの、食べられない、かも」

「そうですか、じゃあ食べられる時にでも食べて下さい、冷蔵庫にいれておきますね」

「う、うん…」

「他に何かしてほしい事ありますか?」

「…じゃあ、キッチンに、適当に作ったおかゆ、鍋にいれておいてあるから、持ってきてくれる?」

「分かりました」

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