心配を巡らせている豪星を他所に、ホームルームが時間通りさっさと始まってしまう。
「………」
本日の連絡事項を聞き流しながら、こっそり、携帯を机の下に隠してメールを打ち始めた。
豪星はあまり、携帯を電話以外で利用する事が好きでは無かった。
単純に、それ以外の事で人と繋がるのが面倒(直接言ったことは無いが、猫汰も多分、なにかしら勘付きそれに合わせてくれているようだ)だったからだ。
なので、普段はその機能をほとんど使用せず、触れる事自体、久方ぶりだ。しかし、事が事なら感覚の好き嫌いは関係ない。
一応携帯に食わせておいた彼のメールアドレスを引き出し、なれない文字を片手で打って、なんとか「おだいじに」の、一列を完成させると、送信を完了させて携帯を閉じる。
すると、メールの送信音が結構な音量で響いてしまった。
そういえば、久しぶり過ぎて音を消し忘れていた事に(そもそも、電話が鳴るような用件が登校中は皆無なので、マナーモード自体あまり利用していない)気付くが、鳴った後ではもう遅い。
それに目敏く気づいた教師が「中嶋、電源切れ」と豪星に向かって注意を促した。
すみません!と謝り、慌てて携帯をマナーに切り替え、鞄にしまい込もうとした、途中、手の中でそれが早速震えた。
後ろを向いた教師をちらりと覗いてから、ぱかりと、中を開くと、大量のハートが、画面から零れ落ちそうな程うめつくされていた。
「なに買っていこうかな…」
いつも(強制的に)用意してくれる、猫汰特製弁当(最近は慣れてしまった所為か、それほど不味く感じなくなってきたのが恐ろしい)の代わりを選ぶ為、購買に赴いたが、今は無き弁当の作り手の事が気になって気になって、自分の会計を済ませる前に、持ち込む物を物色し始めてしまう。
パン…は流石に入らないだろうし、じゃあゼリーとか、飲みやすいジュースとか。
あれ、酸っぱいものとかの方が良いのかな?じゃあ、柑橘系?むしろ酢の入ったやつとか…?と、蜜柑のゼリーを手に取った瞬間。
「うわぁああ!!ごうせー!!」
「いったぁ!!」
後ろから思い切り激突され、もんどりを打った。何々!?と、背後を見れば、何故か、涙目になった龍児が豪星の背中にへばりついていた。
一体何があったのか、その顔には恐怖と震えが張り付いている。
「どこいってたんだ豪星!さが、探したんだぞ!」
「え?ああ、ごめんね、ちょっとお昼ご飯を買いに来たんだ」
「良い!いいから!ちょっとかくまえ!」
「え?」
わぁ!と、切羽詰まった様子で、龍児は豪星をずるずる壁の際へ引くと、くぼみに挟まり、豪星を蓋にして蹲ってしまった。
「え?え?龍児君?何してるの?どうしたの?」
「俺、おれ、い…」
「い?」
「いじめに、あってるんだ!!」
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