「…あれ?」
今朝、登校して教室に入るなり違和感を覚えた。何度も辺りを見渡してから、矢張りそれが目に入らなくて首を傾げる。
丁度近くにいた原野を捕まえて、その違和感の元、もとい「猫汰さんは?」と、まだ見ぬ人の所在を尋ねると、原野も同じく「さあ?」と首を斜めに下げた。
猫汰は何時も、豪星よりも早く学校に来ていて、豪星が教室に入るなり、待ちかねたように「ダーリン!おはよう!」と飛びついてくるのが恒例だった。
うんざりを通り越して恒例行事となってしまっているわけだが、それも、無いならないで違和感を感じるらしい。
なんとなく、静かに感じる教室を見渡し、どうしたんだろう、まだ来て無いのかな、と、窓の外を見たところで、そっけない着信音が鞄の中から響いて来た。
携帯を取り出し宛名を見ると、示し合せたかのように猫汰の名前がディスプレイされていた。
通話を押して、「どうしました?」と話しかけた直後。
「…だーりん、おはよう」
何時もまろやかな声が、通話ごしとはいえしわがれていることに大変驚いた。「どうしました!?」と、今度は心配に声が揺れる。
携帯の向こうで、ぐしゅ、と、鼻をかむ音が聞こえた。
「あ、あのね、俺、風邪ひいちゃったみたいで…」
「え?あ、ああ…ちょっと前からその気がありましたもんね…」
「ん…熱、四十度くらいあって」
「え!?そんなに!?」
「うん、学校には連絡しておいた、けど、ダーリンにも、言っておかないと、って、思って」
「いや!そんな事よりはやく寝て下さい!電話してる場合じゃないですよ!?」
「…うん、ごめん、実は言い訳です…あの、ちょっと声が聴きたくなっちゃって」
「…あ、そうなんですか」
「ごめんね、こんな時間に、もうホームルームに入るよね、俺、寝るから、じゃあ…」
調子の悪さを披露したまま、猫汰からの通話が切れた。歯切れの悪い切れ方だったので、通話の後、気持ちの仕切りが悪くなる。
大体、猫汰はひとりで暮らしているので、ひとりきりで四十度の熱が出てるなんて、…大丈夫なのだろうか?
あの様子では学校と、豪星に電話をしたはいいものの、肝心の身内側に救急サインを出していないかもしれない。
かといって、彼の兄に確認しようにも、相手の連絡先なんて知らないし…。
とりあえず、帰りに何か買って見舞いに行くか。それで色々問い質して、様子を見るのが最善策だろう。
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