「どうしたんですかこんな時間に!」
「あ?俺がこの時間に来ちゃいかんのか」
「いや、アンタ、ほとんどこの時間帯に来た事ないじゃないですか…それに、表に準備中って書いてあったでしょ」
「お前は毎日、俺の為に準備してりゃいーんだよ」
「俺はアンタの母親じゃないですよ…」
背後から入り込んできた、五十代くらいの、派手なシャツを着た男は、断り無く猫汰の隣に座ると、遠慮なく煙草に火をつけ始めた。
その煙をまともに食らった猫汰がじと目になって、わざとらしく咳き込むものの、まるで眼中にない様子だ。
「まーそれがな?ほら、此処に近いスナックに、気が向いて久しぶりに顔出そうとしたら閉まってやんの、腹立ったから煙草にでもしてやろうかと思ったけど、立った腹が減ったから、なんとなくやめたわー」
「…アンタの腹が空いてて、ほんっとに良かったですよ、あの、けど、今日はちょっと…」
「あー?」
光貴が申し訳なさそうに、豪星と猫汰に目配せすると、漸くこちらに気をやった男が、二人の顔を見るなり「お!」と楽しそうな声を上げた。
腰をつけていた椅子を猫汰に寄せて、いきなり肩を組んできた。
うげ、と、猫汰が心底嫌そうな顔で唸る。
「なんだなんだ、こんな侘びしい所に可愛いのが二匹もいるじゃねぇか!ババァばっかりのスナックより、こっちにして正解だったな、おい、特にお前、なまっちろい方!可愛いなーお前、ガキの癖にエロい顔しやがって」
「まぁ、好きそうですよね、なにせこいつ、詩織さんの弟ですから…」
「…なに、おじさん、詩織ちゃんの知り合い?」
「なんだと!?お前が例の、詩織の弟か!道理で誘ってるような顔してると思ったわ」
答えてくれないと踏んだらしい猫汰が、今度は光貴に向かって「知り合い?」と、不機嫌な声で尋ねた。
頬をかく光貴が「まぁ、仕事のな」と、曖昧に答える。
「アイツ、みせろ見せろって言っても写真すら見せてくれなくてよー?なんだこれも縁だな!よろしくな?詩織弟、今度兄弟で俺と丼しようぜ?」
「…みつ、このおじさん、どうにかならないの?」
「…悪い、俺の上司みたいな人なんだ、ほら、前から偶に親父さんがどうこうって言ってただろ?この人なんだよ」
「ああ…」
「その、詩織さんとも、そこそこ縁があってだな…後生だ、上手く流せ」
「うげぇ…っ」
「ははは!その嫌そうな顔も似てるな!うける!」
益々近付いてくる男の顔を、ぺち、と猫汰が軽く叩いて阻止した。
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