傾きかけた陽を浴びる春宵の扉を開けると、カウンターの向こうでグラスを磨いていた光貴と、隣で野菜の皮を剥いていた春弥が一斉に振り返った。

豪星と猫汰の姿を見つけると、空いている方の手を、お互い軽く上下させる。

「豪星ひさしぶりー」

「猫さんは最近ぶりー」

コミカルな挨拶に出迎えられ、会釈をしながら店内に入ると、既に椅子に座っていた猫汰の隣に、座らず、もう一度頭を下げた。

今回は一応、祝いの席との事なので、まずはお礼をした方が良いだろう。

「あの、今日はお招きしてもらって有難う御座います」

「お、相変わらず律儀だな豪星、おおい猫汰、お前はこの愛らしい態度を少しは見習えって」

「やだなーみつ、これはダーリンがやるから可愛いんだよ?ね、ダーリン!ほら座って座って!」

「あ、はい」

来客である筈の猫汰に、ぐいぐいと椅子を勧められ、勢いのまま腰をつける。

早速おしぼりを手渡してくれた光貴が、二人の頭上で「何はともあれ」と会話を引き継いだ。

「猫汰が学校に復帰する気になったのも、未だに通い続けていられるのも、めでたく進級出来たのも、大体はお前のお陰だな、二重めでたいってことで、ほれ、色々作りましたよー?」

「あはは、光貴さんってば、自分が作りたかっただけじゃないか」

「春弥、食事の前に野暮な事言うんじゃねぇよ、大体、お前が良い食材しこたま買い込んだのがそもそもの原因なんだぞ」

「うん、まぁね、だって、色々見てたら止まらなくなっちゃって」

「ハル、また出張に行ってたの?」

「いいや?今回は店閉めて、光貴さんと旅行に行ってきたんだ、猫さんたちが旅行に行ったって聞いて、俺たちも行きたくなっちゃってね、そういうわけで、祝いとお土産もかねてるから、遠慮せずに食べてね?」

事情を話し終えると、光貴と春弥が一斉に配膳を始めた。

刺身の盛り合わせ、鶏の串焼き、おこげの入ったゆげの立つスープ、彩の良い蒸し野菜など。次々と出てくる魅力溢れる料理の数々に、豪星のテンションが鰻のぼりになる。

「じゃ、メインはこちらになりますよ」

そう言って光貴が取り出したのは小ぶりのケーキだった。このタイミングでケーキを出すのは珍しいなと、まじましソレを見つめてから、はっと気づく。

猫汰も、同じ経緯で「あ」と声を上げている。

豪星と猫汰がその外観に驚く様を、光貴はしてやったり顔で眺めていた。

「光貴さん、これって…」

「寿司ケーキだよ、初めて作ったんだけどよ、どう?」

「凄いです!お寿司がケーキになるんだ!綺麗!」

「凄いじゃんみつ!びっくりした!驚かせないでよー!」

「おーおー、良い反応するなーお前等、作った甲斐があったわ」

「意外と簡単だったよね、光貴さん」

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