「あ、ハルも居るらしいよ?」
「え!行きます行きます!」
頷きかけていた首が、最後の一言で加速を極める。
もう引退しているとはいえ、一度憧れた人に何度も出会える機会があるのは正直嬉しい。
つい、わーい!と、柄にもなく腕を上げて喜ぶ豪星に、ふと、猫汰がじと目になって。
「…ちっ、ハルのくせに、ダーリンに懐かれやがって、何時かぜってーしばく」
「え?何か言いました?」
「ううん!なんでもない!それより、学校終わったらすぐ来いよって言ってたからさ、早速行こうよ!」
「そうですね!行きましょう!」
テンション高く賛同し、中途半端に片付いていた机と鞄をさっさと整理し終えると、猫汰と並んで教室を後にする。途中、教室の入り口付近に、見慣れた影が座り込んでいるのに気づいた。
あれ?と目を配ると、豪星に気付いた相手が、亀のように、むくりと首を擡げた。
「龍児君、どうしたのこんな所で?」
「…おう」
小さく返事を返した龍児は、その格好のまま何度も首を上下運動させた後、豪星の隣に居た猫汰をひと睨みしてから立ち上がった。
制服の裾を掴み、おやつを目の前にしたような、物欲しそうな目で見上げてくる。
「…豪星、今日、一緒に帰れないか?」
「え?今日?…あ、ごめんね、今日は用事が出来ちゃったんだ、また今度で良いかな?」
「…ん、分かった」
豪星の断りを聞くと、龍児は寂しそうな顔を浮かべて制服の裾を離した。
ただ、用事を理由に断っただけなのだが、なんだか悪い事をしたような気分になる。最近の癖で、その頭を撫でようと手を伸ばしかけたが。
「もー!ダーリン、早くいこうよー!」
「え!?あ、はい!…ごめんね!龍児君、またね!」
途中で猫汰に二の腕をとられ、差し出した手が宙を旋回した。
前へ前へと進んでいく猫汰の勢いに押され、慌てて龍児に手を振るも、相手はこちらをじっと見ながら、無表情で立ち尽くすばかりだ。
その内、お互いの顔が見えなくなるくらい遠ざかると、龍児は踵を返して立ち去っていってしまった。
「ばいばーい!りゅーちゃん!またねー!」
突然、猫汰がいなくなった相手を大声で叫んだ。遅い挨拶だなと思った、その矢先。
どがん!!と、廊下の向こうから、また突然、物凄い轟音が響いて来た。
なにごと!?と、驚く豪星の隣で、猫汰がのんびり「工事でもやってるんじゃない?」と、笑った。
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