「けど、強引にしたい訳じゃないし、原野が言うみたいに、色々あーだこーだ言って、ダーリンにまた面倒な恋人だって思われるのは絶対いや!……でもさぁ」

ふと、猫汰が声のトーンを一段下げてこちらに歩み寄ってきた。下手なホラーよりも数倍怖い。

「相手がさ、逆に強引な場合って、例外だと思わない?」

「や、やー…どうだろ…いっでぇ!!」

「おい、曖昧に返事すんなや、どうだって聞いてんだろ?」

「いでででで!!そうっすね!例外は例外だと思いまっす!!」

頭をめりめりと掴まれ、痛みをこらえながら叫ぶと、猫汰がぱっと手を離し、「だよね?」と華やぐ笑みを見せた。

それから、おもむろに椅子を片手で掴み上げると、思い切り振り回して、―――がしゃん!!と、教室の窓に放り投げた。

硝子と椅子が外に投げ出され、下に落下していく。

幸い、下に誰も居なかったのか、悲鳴の類は聞こえてこなかった。

ただひとり、悲鳴を呑んで、これを見届けた自分以外は。

はっ、と、満足そうに、大きく割れた窓を見ていた猫汰が、顔を見ないまま、原野の襟をぐいと掴んだ。日焼をしない猫汰の白い肌が、目と鼻の先にまで迫る。

「ねぇ原野君、俺ね」

「は、はい…!」

「ダーリンだけは世界一優先するけど…他にいいこぶるのは、そこそこまでだよ?」

先ほどの可愛げは何処に行ったのか、猫汰は大変あやしい笑みを浮かべてくつくつ笑った。

そして、掴んでいた襟からそっと手を離し、その指で、今度は原野の喉を、くすぐるように触れなぞった。





「豪星!今日、一緒にかえ」

「はいはいごめんねー!ダーリーン!ちょっと良いー?」

帰り支度をしていた豪星に、何処ぞへと出掛けていたらしい猫汰が大きめの声で話しかけてきた。

着崩した制服から覗くアクセサリーの、ばらつく音が聞こえるくらい至近距離に迫ると、今度は小声で、「ね」と、豪星の腕をつついてくる。

「あのね?今日、みつがどーしても店に来て欲しいって言ってるの、何でも、美味しい物がいっぱい手に入ったから、俺たちのおそめの進級祝い、それで祝ってくれるんだって」

「そうなんですか?」

「うん、みつってば、世話焼くの大好きなんだからさー、という訳で、折角呼ばれたんだし、一緒に行かない?」

「そうですね…」

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