こういう事を、いじめとカウントして良いのかどうかは難しいが、とにかく、俺は最近困っていた。
「っんだあのガキ!!人の彼氏にべたべたしやがって!!ダーリンの手前我慢してるのを良い事によぉ!!」
「神崎さん落ちついてください…!」
教室から随分離れたひと気の無い特別教室(という名の空き部屋)の中、古びて平衡感覚がいびつになった椅子をひとつずつ蹴り進んでいく男―――去年転入してきた、神崎猫汰が事の原因である。
何故、自分がこの男と浅からぬ仲を築くようになってしまったかといえば、海よりも深い事情があるのだが…。
今はそれを思い返してげっそりするよりも、彼を宥め伏せなければならない。でなければ、あの蹴りが、数分と経たない内にこちらに回ってくる羽目になるのだ。
今まで何度か食らっているが、それはもう滅茶苦茶に痛いので、出来れば永遠に御免被りたいものだ。
なんとか良い言葉を探している内に、猫汰が突然足を止めた。
椅子を蹴るのに飽きて、今度は机の上でも殴り出すのかと思いきや、くるりとこちらに振り返って、恨めしそうな顔を見せた。その顔は、半分泣きに濡れている。
「…ねー原野ぉ、やっぱり、彼氏の友達のこと我慢できない俺、メンドクサイ彼女みたい?」
急に返答の困る事を聞かれて言葉に詰まる。
先ほど、此処で、同じような状況で、八つ当たりに殴られそうになった時、咄嗟に言った言葉が思いのほか彼にダメージを与えたらしい。
此処半年と暫く、結構な目にあわされているので、思わぬ報復にざまあみろ!…と、思いたくても、何故か不思議と思えなかった。
事の他、彼が真剣な顔で泣きそうになっているからだろうか。
「…あー、えっと、そうでもないっすよ」
嘘をつくのが割と苦手な方なので、意味を含まない返事しか出来なかった。
それがご不満だったのか、猫汰が、む、と頬を膨らませる。
「…どうしたら良いんだろう、どうしたらダーリン、前みたいに一人占めできるの?そりゃ、俺だって、ダーリンに、友達関係の全部を切って欲しいとまでは思わない…いや、思うけど」
思うんだな。やっぱり面倒くさい彼女みたいだな。
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