お互い笑みを浮かべている筈なのに、何故か汗をかいているのは気のせいだろうか?
というか、握手長くない?なんかぎりぎりいってるし。
「…あ!豪星も、俺の先輩になるんだな!」
手を乱暴に振りつつ握手を解いた龍児が、ぱっと閃き豪星に詰め寄った。
「ああ、そうだね」と軽く答えれば、はしゃいだ声が一旦止んで、顔が俯く。
大人しくなった龍児の旋毛を眺めていると。
「…せ」
「ん?」
「ご、豪星、先輩…っ」
龍児がはにかんで、豪星を恥ずかしそうに敬称で呼んだ。さっと、雰囲気が伝染する。
「わ、新鮮!けど、なんか恥ずかしいな、何時も通りでいいよ」
「お、おう…っ、けど、偶に呼ぶ」
「あはは、たまなら良いかー」
「…………人の目の前でイチャイチャしてんじゃねぇよ」
ぼそりと、猫汰が低い声で何事かを呟いた。
上手く聞き取れなかったので「どうしました?猫汰さん」と尋ねてみるが、ううん?と、猫汰は笑顔で首を振った。
「なんでもない、それより、おーい、原野くーん、もういっかい先生が呼んでるよー!」
「ひぃ!!」
しかし、こんな調子では龍児の今後が心配だ。豪星が龍児にとって、初めて出来た友達らしいので、こっちで一緒に遊びたい気持ちは分かるのだけれど、学校に入ったからには学年相応の友達も作るべきだと思う。
龍児は初見でちっとも心を開かないので、友人を自ら作るのはかなり難しいタイプだ。
そんな彼に友達が出来にくいのは身を持って理解している。が、それでも、豪星以外に、此処で友達が出来ると良いなと、お節介ながらも考えてしまう。
この調子では、恐らく向こうの教室でも浮いているのだろう。どうにかして、龍児が自分の持ち場に溶け込めれば良いのだけれど…。
「いっでぇ!!!!」
…あれ?なんか、今誰かの声が聞こえたような?
気のせいか?
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