原野は自分の席へ、ふらつく足取りで戻り、猫汰は、近くに空いていた椅子に座り込んだ。そして。
「…ごめんねダーリン」
「へ?」
急に謝られて変な声が出てしまった。猫汰は、続けて、しょんぼりした声を滲ませる。
「そうだよね、俺、めんどくさい事言わないって、前に言ったのにね、俺、彼氏失格だよね…」
「え、あの?」
「…だって、原野が、めんどくさい彼女みたいですよなんて言うから…!」
「んん?」
「なんでもない!それより、りゅーちゃんとは友達なんだよね?それならもう、それでいいから!とりあえずうんって言って!」
「え、はい、あの、うんそうです」
猫汰に請われるまま、はいと頷けば、よし!と目を輝かせた猫汰が、次いで、じろりと龍児の方を見た。
「ねぇりゅーちゃん、そういう事だから、彼氏のあくまで友達ってことで、お互いなかよくしよーね?」
「ぜってーやだ」
「……し、よ、う、ね?」
「豚と仲良くするのやだ」
「ごめんねぇ?俺、豚じゃなくて、猫汰っていう名前があるんだけど?」
「名前まで豚みてぇだな」
「…………………ひとが大人しいからって調子のってんじゃねぇぞ」
「こら、龍児君、だめでしょ」
散々な態度の龍児に、流石に軽く叱りつけた。猫汰が戻ってきてから不機嫌を顔に戻していた龍児だったが、豪星に叱られた途端、しゅっと背を伸ばす。
「人に豚なんて言っちゃ駄目だよ、先輩なんだから、失礼な呼び方しちゃ駄目、ほら、謝って」
龍児は暫く目を鋭く釣り上げて、視線を外していたが、その内、しぶしぶと言った風に、猫汰に頭を下げた。
「……わりーな先輩、なるべく気を付けるわ」
「そうしてくれると嬉しいかなぁ」
仲直りに、握手しようよと言って、猫汰が片手を龍児に差し出した。じっと、それを見下ろした後、龍児もおもむろに手を掴む。
「……よろしくね?」
「……おう」
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