「ごめんごめん、これ俺のじゃなくて龍児君のなんだ」

「ん?」

「この前俺、旅行に行ってきたんだけどさ、須藤さんのお家に行った時に龍児君の分だけ持ってくるの忘れてて、今日渡そうと思ってたんだよね、はいこれ、チョコレートクッキー」

味も素っ気も無いデザインの土産箱を渡した途端、龍児の頬にさっと朱色が差した。

おずおずと箱を受け取り、こくこく頷いて見せると、龍児にしては丁寧に、ビニールの包装を剥がして、ゆっくり箱の蓋をあけた。

中からチョコクッキーの入った袋を取り出すと、…突然、口を上向きに開けて、中身を全て口に放り込み始める。

びっくりし過ぎて固まった豪星の目の前で、再びもぎゅ、もぎゅ、と、龍児が甘味を咀嚼する。少しもしない内に、それらはごくりと、発育途上の喉の中に飲みこまれていった。

再び赤味に染まった顔で、空になった箱を大事そうに掲げた龍児が「ありがとう、豪星、これも大事にする」と、真剣な眼差しで呟いた。

「いや、うん、どうも」

龍児的には箱がメインなのか。相変わらずよく分からない感性だ。まぁ、喜んでるみたいだから良いんだけど。

「どんなところに行ってきたんだ?」

「うん、美味しいものがたくさんあってね、おっきい神社もあるところ、色々見て回ったり、かき氷食べたり、あ、泊まった部屋もすごく綺麗だったよ」

「おお…!」

豪星の旅路を、まるで自分の事のように噛みしめた龍児が、夢見がちな顔で天井を見上げた。

今、彼の頭の中ではどんな光景が繰り広げられているのだろうか。

屹度豪星のリアルと、彼の夢見では全く異なる映像になるのだろうが、その差を想像すると少し楽しい気持になる。

とても、大掛かりな旅行だったんだ、初めての事ばかりだったんだよと、調子に乗って説明していた途中、ふとひらめき、ぱんと手を叩いた。

「そうだ!龍児君も、今度俺と一緒に遊びに行こうよ」

「!」

「泊まりは…流石に無理かもしれないけど、日帰りで遊びに行くならそんなにお金もかからないし、ね?」

一緒に行ってくれる?と、念を押すと、龍児がこくこく!と、勢いよく頭を縦に振った。

「嬉しいなぁ、何時ごろ行こうか?そろそろゴールデンウィークに入るし、その時とか、どう」

「お前の行きたい時で良い!」

「そっか、じゃあそうしよう、楽しみだね」

「ん…っ!」

そうと決まれば、父親にもう一度旅費を交渉しなければ。もしも駄目なら、短期のバイトを探そう。

今度色々調べておくねと、先の楽しみに華を咲かせている内に、向こうの扉がスパン!と開いた。

振り向くと、ご機嫌の戻らない猫汰と、何故かぐったりとしている原野が、並んで教室へと戻ってきていた。

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