教室中に、もぎゅ、もぎゅ、もぎゅ、と、食べ物を盛大に咀嚼する音が響く。
誰もがそのイレギュラーな音に目を張ったが、それを一番凝視しているのは猫汰だろう。
うっすらと微笑みながら、しかし、視線を一ミリを動かさない。
やがて、音の持ち主が七つ目のパンの袋をばりん!と開けた所で、漸く、猫汰が「ねぇ」と声を掛け始めた。
「きみ、どうして此処にいるのかなぁ?」
きみ、と呼ばれた相手―――龍児は、相手をちらりと一瞥くれた後、ふいと顔を背けて「飯食いに来た」と答えた。
猫汰の眉が、数ミリ、ぴくりと跳ねる。
「そーじゃなくてさぁ?此処、三年の教室なんだけど、君がご飯を食べにくる所じゃないんだけど?」
「豪星と一緒に食べる」
「へー、あっそう?ところで、君が座ってる所、俺の席なんだけどー?」
「君きみうるせぇ、龍児だ」
「へーー、あっそう、ねぇりゅーちゃん、そろそろ空気読んでくれないかなぁ?」
「おい豚、変な呼び方すんな」
「どけっつってんだよいい加減にしろや!」
「ちょ!猫汰さん!」
冷感渦巻く会話を隣ではらはらと見ていた豪星だったが、猫汰がとうとう足を出そうとした、ところで、慌ててその動作を止めた。
龍児の態度に問題があるのは分かっているが、上級生が入ってきたばかりの新入生に手を、ましてや足を出しては不味いだろう。
豪星に割って入られると、途端、猫汰は足を止めて大人しくなったが、今度は唇を噛んで下を向いてしまった。
豪星が、相手の肩を掴んでおろおろしている内に、猫汰が「ちょっとトイレ行ってくる」と言って、ぱっとその場を離れた。
「ああそうだ!ちょっと原野!くん!さっき先生に呼ばれてたよな!?」
「え!?いや絶対よばれてなっ……行きます!わーい先生に呼ばれたぞー!!」
猫汰の背を追うようにして、原野も教室を後にする。良いタイミングで場が流れた…と、二人を眺めていた間、龍児がくいくいと、豪星の腕を引っ張ってきた。
視線を机に戻すと、食べ終わったパンの袋の隣に置かれた、それまで存在を無視されていた、古臭いデザインが印刷されたお菓子の箱を、龍児が指さした。
封の空いていない箱を、期待の眼差しで、豪星の顔と交互に見比べる様は、明らかに「ちょーだい?」の合図だ。
以前豪星が怒った所為か、龍児はこうして、自分のものでは無い食べ物が欲しい時、ちょくちょく尋ねてくる事が増えた。
食べられること前提なのは変わりないが、進歩には違いない。
しかし、この箱に関しては普段と事情が違った。「ああ」と、素っ頓狂な声を上げる。
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